今年も、のこり1ヶ月。コタツが恋しい季節がやってまいりました。
来年こそは本気を出す! キンドる速報レビュー担当☆イマガワです。

さて、本日のキンドる速報イチオシ作品はこちら。

Pの刺激 - Punk is UNknown Kicks -Pの刺激 - Punk is UNknown Kicks -
著者:ヘリベ マルヲ
販売元:人格OverDrive
(2012-10-27)
販売元:Amazon.co.jp

「ガラパゴス出身なのか」と、からかわれるくらい顔がイグアナに似ている州辻郁夫(すつじいくお)24歳。

職業は、いちおう探偵。

悪夢潜りという「夢を共有することで、相手の記憶や識閾下に潜入する」異能の持ち主。

依頼されたのは、家出少女の捜索。かつて早熟の天才ともてはやされた16才の美少女作家・羅門椎奈(らもんしいな)。

くしくも、祖父である無頼派作家・羅門生之助(らもんしょうのすけ)も、おなじように失踪したのち行方不明のままだ。

それは異様な光景だった。「PCz(ピーシーズ)」と呼ばれる作者不詳の小説の断片群によって、ひとつの街が覆い尽くされているのだ。

大量の断片群に刻みこまれた魔術的想像力は、やがて郁夫たちが存在する「現実世界」を侵食しはじめる。


夢を題材にしたハードボイルドミステリ


「睡眠時の夢を他人と共有することによって悩みを解決する」といえば、筒井康隆「パプリカ」が有名ですね。故・今敏監督が手がけたアニメーション映画も名作です。

しかしながら、本作をその二番煎じと断ずるのは早とちりというもの。この作品は、むしろ鈴木光司「リング」「らせん」「ループ」いわゆる貞子三部作の読後感に近いというのが、わたしの印象です。

すなわち、たった一個体の狂気的な妄執が人類全体を巻きこんで甚大な事態を引き起こすさまを、いちばんの特等席で眺めることのできる快感。まさに「Pの刺激」は、そういう読書体験ができる小説です。


イグアナ探偵、パンドラの箱をひらく


主人公の郁夫が「悪夢潜り」という異能を得たのは、カルト教団「本多羅教」に在籍していた頃。両親が信者だったので、なかば強制的な入信でした。

プリオナール、通称「P」と呼ばれる脱法ドラッグを使った能力開発。その後、教祖の死にともない300人以上の信者による集団自殺事件をもって教団は終焉を迎えます。

孤児となってしまった郁夫は、洗脳から徐々に解き放たれて、たくましく生き延びます。そして、探偵の真似ごとをして生計を立てているうちに今回の事件に遭遇するというわけです。

最年少の茶川賞作家であり家出少女でもある羅門椎奈(らもんしいな)は、たいへん胸の大きい女の子です。ネタバレになってしまいますが、これは本作にまつわる謎にまったく関わりがありません。

物語が進むにつれ、この羅門椎奈という少女が「ミッシングリンク」の始まりであったことに読み手は気付かされるでしょう。

本作の圧巻は、椎奈の祖父である「羅門生之介(らもんしょうのすけ)」という人物との邂逅です。

出会うといっても、生きている彼にふれることはできません。失踪前に交流があった担当編集者の証言や、生之介の小説・エッセイの紙面によってのみ、わたしたち読者は伝説的な無頼派作家の謦咳に接することができるのです。

羅門生之介の豪快かつ奔放な文体には、読んでいて思わずニヤリとさせられます。ふつう作中作というのはイマイチなものですが、羅門先生は別格だといえます。本編であるイグアナ顔の探偵の話がどうでもよくなるくらい、とにかく生之介がつむぎだす文章は魅力的です。

そして、この羅門生之介こそが本作の謎を解き明かす「ミッシングリンク」を構成する最後のキーマンなのです。


原稿用紙およそ380枚の長編ミステリ


その果てには、作者があらんかぎりの語彙と想像力を駆使した魔術的リアリズムによる衝撃のラストが待ち受けています。ぜひ読んでみてください。


文章の超絶技巧度
★★★★☆(4)
驚きのラスト度
★★★★☆(4)
オヤジキャラの魅力度
★★★★★(5)
総合
★★★★☆(4)

関連リンク


作者であるヘリベマルヲさんの公式サイトです。
「Pの刺激」以外の作品情報や、活動日記が読めます。著者近影がダンディ!

インディーズ小説 人格OverDrive
http://heribe-maruo.mond.jp/

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