ミンガラ ネレーキンパ! (ミャンマー語で「こんにちは」の意)
キンドる速報ライター☆イマガワです。

時期が時期だけに、ちょっと微妙な話題だけど……思い切って紹介しちゃいます!

憂春の光芒憂春の光芒
著者:無有明
(2013-01-28)
販売元:Amazon.co.jp

大学受験に失敗した少年が、とあるさびれた喫茶店のなかでぼんやりしていると、怪しげな風体の男が現れる。その後、人生の目標もなく優柔不断で自分では何も決められない少年の心に何が起こるのか――。


無気力な浪人生


流康高(ながれ・やすたか)。大学受験に失敗したピカピカの浪人生。ニックネームは「ヤス」だけど、犯人じゃない。母と2人暮らし。父は失踪中。

ヤスの愛読書は『ホルヘ・ルイス・ボルヘス』の詩集。「現実の瑣末な雑事を忘れさせてくれる」のがお気に入りで、何度も何度も熟読していた。

運命の出会い


喫茶店で、ボルヘスの一節に刺激を受けてノートに自作の詩を書いていると、ひとりの男が話しかけてきます。190センチの長身、坊主頭、サングラスという異様な風貌。平凡な浪人生だったヤスの運命を変える人物です。

はぐれ者たちの楽園


異様な男の名前は、ヤン。中国人と日本人のハーフ。投資金融業を営む「若き大富豪」であり、芸術家や放浪者たちの庇護者。所有する広大な敷地内にゲストハウスをつくり、才能ある流浪者たちの滞在を許していました。

現代の孟嘗君


古代中国に「孟嘗君(もうしょうくん)」という政治家がいました。なにか一芸に秀でていれば、その才をおおいに称賛して衣食住を保証したのです。食客として迎えられた者のなかには「一流の盗賊」もいれば、「ニワトリの鳴き声のモノマネ名人」という者もいました。のちに、ふたりの食客は「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」という故事の由来になります。

ヤンは現代の孟嘗君といえるでしょう。浪人生ヤスは自作の詩を認められて、ヤンの屋敷に「食客」として短期滞在することになります。

浮世離れした食客たち


若き大富豪ヤンは、バイセクシャルです。男女両方が性愛の対象で、浪人生ヤスのことも狙っています。食客のなかにはその類の人間が多く、たとえばソムチャイというタイ人の男性は、失恋をきっかけにゲイになりました。

サリーという美女の食客もいます。彼女には「のどぼとけ」があります。大切なところの手術はしてませんが、上半身の一部には手を加えており、ホンモノの女性と見分けがつきません。ヤスは誘惑されますが……読めばわかる(笑)

浪人生ヤスは、これまで出会ったことのない「浮世の常識では計ることのできない人々」と交流を深めていくうちに、大学受験や予備校通いに疑問をもちはじめるのです。

洗脳からの脱却


この小説の圧巻は、地下の瞑想部屋で繰り広げられる「脱・洗脳」の描写です。大富豪ヤンが、浪人生ヤスを「教科ごと」に論破していく光景がすさまじい!

「制限時間内に問題を解くことの無意味さ」からはじまって、浪人生ヤスがもちこんだ参考書や過去問を槍玉にあげて「なぜ世界史の年号まで覚える必要があるのか?」「英語が話せないことがそんなに恥ずかしいことなのか?」「国語において文学者の心情を推測することに意味があるのか?」というふうに詰問して、浪人生ヤスを論破していきます。

大学受験を全否定?


本作『憂春の光芒』は、浪人生が陥りがちな「思考の迷路」を寓話化したものです。「現実逃避」と「でも、生きるためには学ぶ必要がある」という葛藤を、成功者と浪人生の対話を通して描いているように感じました。浪人生だけでなく「社会に出たけれど、壁にぶち当たって悩んでいる」という人にもオススメします。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。

  • 憂春の光芒
  • 著者:無有明
  • 価格:99円
  • 読了にかかる時間:約3時間(個人差があります)
悩める青年度
★★★☆☆(3)
浪人生あるある度
★★★★☆(4)
性別にとらわれない度
★★★★★(5)
総合
★★★★☆(4)

著者のブログ


無有明(むゆう・あきら)さん。ブログが面白いです。

無有のブログ

海外経験が豊富で、実際の滞在経験があるようです。アジア各国、中国、リオデジャネイロ、そしてブエノスアイレス。本作『憂春の光芒』にも登場する文学者『ホルヘ・ルイス・ボルヘス』が常連だったカフェに毎日通っていたという貴重なエピソードも読むことができます。「大富豪ヤン」のモデルは著者自身なのかもしれませんね。

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