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つんどく速報ライター☆イマガワです。

日本版KDPが開始してから早10ヶ月――いよいよ、偉大な才能の持ち主たちが、可視化され始めたようです。

潜入日記 The Diary of an Undercover Detective潜入日記 The Diary of an Undercover Detective [Kindle版]
秋元 カズヤ (著, イラスト)
出版: 秋元 カズヤ; 1-1版 (2013/6/15)

ある家族に潜入した覆面捜査官の内面の苦悩を日記形式でつづる。
文庫本換算(42字×15行) 約213ページ

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

自称・潜入捜査官の学生


はっきり言います。本書『潜入日記 The Diary of an Undercover Detective』の主人公は、正真正銘のキチ●イです。

 やつらは俺のことを完全に家族だと思っているらしい

本人は学生であり、父と母と妹を含めた4人家族なのですが、自宅内では潜入捜査官(部外者)の立場を徹底しており、けっして他の3人に気を許そうとしません。

たとえば、朝食に毒を盛られているかもしれないと思いこんで頑なに手をつけないのですが、いよいよ空腹に耐えかねて、せめてもの負け惜しみとばかりに母親に向かって言ったのが、次のセリフ。

「分かりました。あなたもなかなかやるじゃないですか。私は決しておなかはすいてませんが、いいでしょう。いただきます」

素直に食べなさいよ(笑)

潜入捜査をしているつもりのくせに、いっこうに家族たちと馴染もうとしません。あきらかに矛盾しているのですが、それは作品としての矛盾ではなく、マジキチ自身の内面の矛盾を、描写してみせているわけです。

学校に行くのをゴネて、父親に殴られる


 それを俺は堂々と受けてやった。これはなまじな警官でもできることではない。というのは、もし普通の警官だったら、タイホどころではすまなかっただろう。その点俺であったことをこのおやじに感謝してほしいものだ。

 俺でなかったら、こいつの頭には今ごろ弾の通過した風穴があいてアベックが夕涼みに来ていただろうから。

アベックが夕涼み(笑) 若干、言い回しまわしが古くさい気もしますが、けっこうツボにはまりました。

あくまでも、じぶんのことを警官――国家権力の行使者であると思い込んでおり、気に入らない相手をいつでも射殺できるという『空虚な慰め』が、彼をかろうじて現実生活に引き止めているようです。

狂人の独白小説といえば、精神科や閉鎖病棟が舞台であることが多いですが、本書の場合は、正真正銘のマジキチが、一般の日常のなかに溶け込んで暮らしているのが特徴です。

引用部分だけを読めば『中二病』に見えるかもしれませんが、そんな生易しいものではないことが、物語終盤であきらかになります。

鬼才にして英才にして多才な書き手


今回のレビューでは、ごく一部しか引用できませんでしたが、文庫本換算200ページ以上にわたって、決してブレることなく、キチ●イの自意識を書き尽くしています。数ページ読めば、驚嘆せずにはいられないはず。

本書のような完成度をほこる滑稽文体は、いわば息継ぎなしで何時間にもわたって面白いことを喋り続けているようなものであり、類まれなる才気と、相当量の修練の賜物といえるでしょう。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「電波」度
★★★★★(5)
「読みやすさ」度
★★★★☆(4)
「私小説としての完成」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)



著者について


秋元カズヤさん(@kakimotomuseum)。『あきもと・かずや』と読みます。東京都出身。小説家としてはシュールレアリスムを、画家としては具象及び古典を好む。

すでにKindleストアにて20作品以上を発表しています。いずれも読み応えのありそうなものばかり。弊ブログでご紹介した作家でたとえるならば『牟礼鯨ヘリベマルヲ不狼児』級の本格的な書き手であると断言できます。


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