こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

今回ご紹介するのは『テキストとは何か』をテーマに設定した、哲学の匂いを感じさせるミステリ短編です。

ある文章の告発ある文章の告発 [Kindle版]
針とら (著)
出版: 針とら; 1版 (2013/4/26)

"私は犯人を告発する文章である。それは私の持って生まれた使命である。"

轢き逃げ犯人告発のためにこの世に書き落とされた「文章」。

文章は、口封じされてしまった書き手の代わりに、犯人の罪を世間に知らしめようと、様々な人間たちに己の文面を訴えていく――!

前代未聞、「文章」の生まれてから死ぬまでのお話。
文章の文面は人の心に届いて、犯人を逮捕できるのか!?

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

あらすじ


人生に行き詰まり、生活にも困窮した若い男がいました。

男は、ある晩に、交通事故の現場を目撃します。ただし、この事故は、いまだ世間には知られていません。

轢き逃げでした。自動車の運転手――犯人は、息絶えた被害者をトランクに詰めこんで、事故現場を立ち去ったのです。かなり悪質なものです。

まともな社会生活も送らず、カネに困っていた目撃者は、轢き逃げ犯を恐喝することを思いつきます。

それは大金と引き換えに、自分の命を危険にさらす行為でした。万が一、返り討ちにあった場合のことを考えて、目撃者は『保険』を思いつきます。

轢き逃げ犯を告発する文章


俺は、上記の人物が、人の命を奪ったことを告発する。

日時は七月十七日午前一時前後。現場は東京都大田区馬込南四丁目交差点から二本入った小道。

犯人は酒気帯び状態で車を運転していた。被害者の脈を確認し、死んだことがわかると、トランクの中に被害者を詰め、通報することなくその場を離れた。

犯人の住所は現場のすぐそば、以下に記すマンションである。人の命を奪っておきながら、今もここで何ごともなく生活している。

これを読んでいる人にお願いします。もし俺の身に何かあったら、このことを警察に通報してください。よろしくお願いします。

そして、恐喝の当日。犯人と対決した結果――むごい凶行が繰り広げられたのちに、目撃者の口は封じらてしまいます。じつは、これは導入部にすぎません。

そうです。物語の主要人物が、序盤で退場してしまうのです。では、いったい誰がこの小説をラストまで語り継ぐのか?

告発文のながい旅


本書『ある文章の告発』の主人公は、意識を宿したのち自我に目覚めた『告発文』です。

目撃者は、自分に万が一のことが起きる事態を想定して、告発文を複製していました。

はじめはテキストデータとして生み出された『告発文』は、用紙に印刷されたのち、何通もの宛先不明郵便として旅立ちます。

文章にとって、複製とは兄弟姉妹や親子を意味しません。彼らは彼であり、彼は彼らなのです。

複製された『告発文』は、集合意識の持ち主でした。たとえ、ある1枚が犯人によって破棄されたとしても、別の場所にある『告発文』が使命を全うしようとします。たしかに、文章とはそういうものですよね。

手紙だけでなく、ある『告発文』はインターネットの海をさまよいます。ほかの『告発文』は、図書館にある本のあいだに挟まれて、じっと発見されるのを待っているのです。

感想


まさしく『文章の生まれてから死ぬまでのお話』であり、告発文のあるじ――目撃者の意志を受け継いだ『告発文』そのものが、轢き逃げ犯に引導をわたすために奔走します。

でたらめの住所に向けて配達される前に、『告発文』は郵便局において、さまざまな文章たちと交流を深めます。ラブレターや金銭の督促状などとの対話は、哲学的ですらあります。

もちろん、単なる奇想小説では終わりません。本書は、広義のミステリです。結末にはあっと驚く展開が用意されています。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • ある文章の告発
  • 著者:針とら
  • 価格:150円
  • 読了にかかる時間:約1時間(個人差があります)
「奇想」度
★★★★★(5)
「読みやすさ」度
★★★★★(5)
「意外な結末」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★★(5)


著者について


針とらさん(@Varitra)。『ヴァリトラ』と読みますか?

じつは、華麗なる新人賞投稿歴の持ち主です。第八回講談社BOX-AiR新人賞最終選、第一回角川つばさ文庫小説賞最終選考に加えて、ご紹介した『ある文章の告発』は、第二回別冊文藝春秋新人発掘プロジェクト最終選考作品です。


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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 2. 安平物流网
    • 2017年02月15日 21:54
    • 好文章,内容观念明确.禁止此消息:nolinkok@163.com
      安平物流网 http://www.anpingwuliuwang.com
    • 1. 遮阳网
    • 2017年02月14日 03:22
    • 好文章,内容义正词严.禁止此消息:nolinkok@163.com
      遮阳网 http://www.jyjzyw.com/
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