こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

主人公の成長を描いた小説を『ビルドゥングス・ロマン』と称しますが、本書はまったくの正反対。

今回ご紹介するのは、まさに『ぜんぜん成長しない小説』という説明がぴったり当てはまる短編小説です。

三毛猫のものさし a rule of Mi-ke三毛猫のものさし a rule of Mi-ke [Kindle版]
樫本 誠太郎 (著)

サイトウは何事にも積極的になれない30歳代の男。過去の自分と決別するために東京から札幌に転職してきたものの、最初に配属された営業の職に馴染めず、今では工場でアルバイトに混じって働いている。

ある日、大阪弁を喋る三毛猫のシンキチが家にやってきて、一宿一飯の恩義と称し、サイトウに助言を繰り返す。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

アンチ・ビルドゥングスロマン!?


本書の主人公であるサイトウは、無気力なくせに、高慢で、自己中心的で、努力しないくせに他人へ責任転嫁ばかりして、勝手な独り合点によって周囲の人間を見下している、どうしようもない人間です。

じつは、本書『三毛猫のものさし a rule of Mi-ke』を読み進めながら、つい感情移入してしまいました。あぁ、これは自分のことである、と。

もし、あなた自身がどうしようもない人間であるという自覚をもっており、今まさに人生について悩んでいるのなら、本書の主人公であるサイトウに対して、大いに共感できることでしょう。

そして、きっと読後には、あなたの悩みは解決しないでしょう。???

そうなのです。物語が結末を迎えても、主人公の人生の諸問題についての解決はもたらされないのです。これ、著者は絶対に狙ってやってると感じました。

まさに本書は『主人公がまったく成長しない小説』なのです。いまいち人生がうまくいっていないクズの皆さんは、きっと身につまされると思います。

サイトウって、どんな奴?


主人公のサイトウは、大学院まで出ているくせして学識に見合った仕事につかず、まともな人間関係すら築くことのできない、もうすぐ30歳になる男性です。

じつは、博士課程終了後に、ある研究所に務めていたのですが、不祥事がきっかけで追われるようにして退職します。

サイトウは、なかば逆恨みのような鬱憤を抱きつつ、北の果てである札幌へと引っ越します。それは地縁を頼ってのものではなく、単に知り合いがひとりもいない場所へと逃げ込むためでした。

もう何もかもイヤになったサイトウは、研究者のキャリアに到底つり合わない工場作業員へと身をやつします。

そして、単調な仕事にも慣れたある雨の日。サイトウは、人語を話す三毛猫――シンキチに出会うのです。

しゃべる猫が登場するものの……


このシンキチという三毛猫は、口調が大阪弁であったり、なぜかゲーテの格言を引用したりと、魅力的なキャラクターです。

「そら、猫も喋るわ。ドラえもんもキティーちゃんも喋るねんから、他にも喋る猫がおったっておかしないやろ。キティーちゃんなんか、口も開けんと喋んねんから、あっちの方がよっぽど気色悪いで」

「ゲーテさんのこんな言葉を知ってるか? 『絶望など愚かしい。可能なものの限界を測ることは誰にもできないのだから』って」

しかし、主人公のクズっぷりが際立ちすぎて、シンキチの特異性が色あせて見えます。

とにかく、主人公であるサイトウにおける無慈悲かつ情けないほどゲス野郎っぷりが、作品内のあらゆる登場人物を凌駕しているのです。

感想


はじめのうちは、サイトウのどうしようもない人間性にうんざりしながら読み進めていました。しかし、次第に彼のみじめな青春時代や、成人になったあとも一向に成長しない生き様が語られるにつれ、同情というか共感せざるを得ませんでした。

本書は、万人のための小説ではありません。いわば、あまり良くない意味で『選ばれた人間』のみが楽しめる作品だといえます。

嗚呼、わたしの悩みはいつになったら解決するのでしょうか? いつになったら幸せになれるのでしょうか?

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「読みやすい」度
★★★★☆(4)
「猫がカワイイ」度
★★★★☆(4)
「他人事とは思えない」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)



著者について


樫本 誠太郎さん。『かしもと・せいたろう』と読みます。Kindleストアにて『ナル NULL』も発売中。


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