こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・江戸初期から400年におよぶ将棋文化史
・膨大な歴史資料の裏付けと、平易な解説
・戦前戦中における関東将棋界の裏話もりだくさん

将棋文化誌
越智信義
出版: 小澤書房; 1版 (2014/2/4)


著者は永年にわたり各種文献を調査し、将棋を愛好し支えてきた人々の、時代時代の世相との関わり、折々の証言記録などをとりまとめてきた。本書はその集大成であり、これまでにない将棋文化の記録書となった。

著者より「本書により、過ぎた古い時代の将棋の愉しみ面白さを感じとるもよし、また時代を超えて、自分の将棋心にひびくものを見出すもよし。読者の将棋心と研究意欲をいっそうかき立てる書となることを心から願っている」

名著『将棋の博物誌』を引き継ぐ一書がついに登場!

[本書の目次]
第一章 浮世絵と将棋
第二章 江戸の世相と将棋狂歌
第三章 江戸・明治の文献と将棋
第四章 将棋史跡を訪ね
第五章 チェス・中将棋
第六章 明治 大正 棋界の歩み
第七章 斎藤茂吉と将棋短歌
第八章 思い出
付録

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。


知る人ぞ知る将棋文献収集家の著者が、江戸初期から数えて400年にわたる膨大な資料をひもときながら、日本人の生活に息づく将棋文化の歴史について、丁寧に解説しています。

過去に『将棋世界』や『NHK将棋講座』などの商業雑誌に掲載されていた未単行本化の原稿をまとめています。

以下のレビューでは、とくに興味ぶかく読んだものをピックアップしています。

江戸の世相と将棋狂歌


二階にてさすや象戯の争ひも
おろしてくれのおろすまいのと

中将棊花の王手や二階にて
三間飛びの獅子のたはむれ

寛政十年(江戸中期)に読まれた狂歌です。

二階というのは、銭湯(湯屋)の二階を指しています。お茶やお菓子を飲み食いしたり、将棋や囲碁を楽しむなど、庶民たちのサロンの役割を果たしていたそうです。

2首目における中将棊というのは、縦横12マスの盤上に21種類(各46枚)を並べる将棋の一種です。もとは貴族階級の遊戯ですが、武士や庶民のあいだに普及していたことが読み取れます。

本書では、当時の狂歌を分析することで、元禄年間(1700年ごろ)に中将棋ブームがあったらしいことを分析しています。将棋を詠んだものが、すくなくとも百首は収録されている勢いです。壮観!

江戸・明治の文献と将棋


将棋における家元制(世襲制)名人制度がはじまったのは、慶長年間(1600)年ごろです。

幕府公認となって、ますます将棋は盛んになり、名人による棋譜や定跡集が求められるようになります。

とくに出版が盛んだった寛政や文化文政時代には、山東京伝や滝沢馬琴なども将棋に関する物語を書いています。

明治35年ごろ。当時の強豪棋士たちを相撲番付になぞらえて大関や関脇などのように位置づけていたそうです。(番付表を収録!)

明治 大正 棋界の歩み


いかにしてプロ棋士という職業が成り立つようになったのか? 現在の『日本将棋連盟』へと集約したのか? 100年さかのぼって丁寧に解説しています。

明治維新後。幕府公認の職業だった家元制名人や棋士たちは、拝領していた俸給や家屋敷を返還せざるをえなくなります。収入のみならず住居まで失ったわけです。

現在のような新聞社主催の棋戦が始まる━━対局料を得られるようになるのは、明治40年ごろ。(当時は兼業棋士が多く、実力にバラつきがあった)

棋士たちは、それぞれ団体を結成します。たとえば『東京将棋社』や『東京将棋同盟社』や『東京将棋研究会』や『東京将棋倶楽部』など。販売収入を目当てに将棋雑誌を創刊しては廃刊を繰り返していたそうで、生計を立てようと努力していた跡が見られます。

で、その10年後くらいに合同して『東京将棋連盟』が結成されるのですが━━『日本将棋連盟』になるには、さらなる紆余曲折を経なければなりません。

感想


さらに言えば、僭称名人騒動で有名な、関西の阪田三吉が所属する『関西将棋研究会』というのも絡んできて、しかも、大阪朝日新聞が阪田のことを支援していたものですから、関東棋界との確執はますます深まり━━将棋ゴシップ好きにはたまらない内容です。

本書のように、手頃な価格かつ新刊として手に入るもので、江戸期の将棋にまつわる風俗や明治大正の関東棋界における裏事情を紹介している本は貴重です。連盟の公式沿革ページやウィキペディアでは知ることのできない情報ばかりでした。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • 将棋文化誌
  • 著者:越智信義
  • 価格:922円
  • 読了にかかる時間:約5時間(個人差があります)

「貴重な資料」度
★★★★★(5)
「将棋の薀蓄」度
★★★★★(5)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★★(5)



著者について


越智信義 さん。『おち・のぶよし』と読みます。将棋文献収集家。第2回大山康晴賞、第8回将棋ペンクラブ特別功労賞。


あわせて読みたい


江戸の名人
越智信義
小澤書房
2013-12-01


「将棋世界」での好評連載をまとめました。

1世名人大橋宗桂から12世名人小野五平まで、江戸時代の将棋界に君臨した12人の名人たちの生涯と業績をわかりやすく紹介しています。

名作詰将棋、将棋年表、寺蹟案内など関連資料も盛り沢山。


あなたの一冊をレビューします


つんどく速報では、電子書籍のレビュー候補を受け付けています。
ご応募はこちらから。
おもしろい電子書籍を教えてください(自薦・他薦を問いません)

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット