こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・ユーモア系のショートショート集
・駅におけるハトの生態記録・河童の実在/非実在論争など
・著者は電子エンジニア

皿上の空論 ~他四編 短編集~皿上の空論 ~他四編 短編集~ [Kindle版]
友瀬 通 (著)
出版: Sonody systems; 初版版 (2013/12/24)

この本は、五編の小説からなる短編集です。少しサイエンス・フィクション傾向のある小説になっていますが、全く重苦しくない内容になっています。

【目次】
ステンショ・ピジョン
皿上の空論
宇宙ヶ丘ニュータウン
小心旅行
廃塔

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

ステンショ・ピジョン


ピジョン=鳩(pigeon)です。じゃあ、ステンショとは何か? 駅(station)を指しています。

ステーションでは? おっしゃるとおり。しかし。日本の明治時代初期における市民のあいだでは、鉄道駅のことを『ステン所/すてんしょ』と呼んでいたそうです。へえ〜。大阪などで。へえ~。

【参考リンク】鉄道駅 - Wikipedia

ステンショ・ピジョン。駅バト。改札を抜けたところにある広場でタモリじゃなくてタムロしてる連中。警戒心が限りなくゼロに近い野生動物。都市においては癒やしにもなりうる存在。

さて。本書『皿上の空論 ~他四編 短編集~』の冒頭に収録されているのが『ステンショ・ピジョン』というショートショートです。10分ほどで読める掌編小説。

どんな話か? 駅バトが主人公。鳩の1日を、ハト自身が語っています。たったそれだけのお話。でも、おもしろい。適当なところを引用します。

 この『平野駅(私には読めないのだが)』には現在、二十二羽のハトが棲んでいる。三ヶ月程前までは二十五話いたのだが、ギルバートは老衰、ロバートは餓死し、グーテナハトは電車に轢かれて逝った。皆いい奴だったが、これも自然の厳しさと受け止める他ない。人は「三歩でものを忘れる」と我々を揶揄するが、我々は友の死の悲しみだけは決して忘れない。他のことは確かに三歩で忘れるが。

 ああ、言い忘れていた、私の名前を。私の名はハトラッシュ。

鳩だから、ハトラッシュ(笑) なんじゃそりゃ。いいぞ、もっとやれ。こんな調子で、駅バトが駅バトならではの1日の出来事を語っています。特にオチはないのですが、一貫してトボけた語り口が楽しめる一作です。

皿上の空論


机上の空論ではありません。皿です。デスクではありません。

では『皿上の空論』とは何か?カッパです。河童。妖怪さん。河童のお皿にまつわる掌編小説です。

あらすじ。若い恋人たち。で、カノジョの父親に挨拶に行きます。堅苦しいものではありません。NOT「娘さんをボクにください」。カジュアルな雰囲気です。

カレシと父親が話しているうちに、いつしか口論になります。原因は? 河童にまつわる実在/非実在論争でした。

端緒は、カレシが「河童は非科学的だ」と言ったこと。お父さんの導火線に火がつきました。引用します。

「いいか。河童という存在が非科学的であるということを、科学的に証明して初めて河童は非科学的だと言えるんだ」
「でも、社会通念的には河童はいないということが明らかじゃないですか」陽介が反論した。
「それは違う。そもそも社会通念で判断すること自体が間違っている。例えばだ、二〇〇年前の欧米では社会通念的には人間が猿から進化したなんてことは有り得なかった。だが、今はどうだ。それを多くの人が受け入れているじゃないか。社会通念で河童の存在を議論することこそ、余程非科学的なやり方だ」
「じゃあ、お父さんは河童はいるって言いたいわけ?」少しいらついた口調で涼子が尋ねた。
「お前もわかっとらんな。いるかいないかは分からん。ただ、非科学的かどうかは科学的に考えてみなければならないということだ」

ウザい(笑) カノジョの父親である以前に、ひとりの人間として関わりたくない。

━━でも、ちょっと待ってください。これは小説です。ある意図を織り込んだ物語です。不毛に見えるやりとりには、理由があります。

お父さんがゴネている理由とは何か? 娘のことをオトコに取られたくないから? イヤガラセ? ちがいます。オチを読めばわかります。まあまあ斬新です。このショートショートは面白かった。アイデアが良いです。

宇宙ヶ丘ニュータウン


SFです。火星から地球までを超超超超超超超超超超チョー遠距離通勤しているサラリーマンのお話。すぐに読めるショートショートです。

あらすじ。ごく平凡な既婚サラリーマン。新婚ホヤホヤ。以前は地球に住んでいました。団地暮らし。

しかし、奥さんが病んでしまった。精神を。美人で温厚。だからこそ、団地のご近所ババア連中に妬まれて悪口言われるようになった挙句……メンタルのヘルスをアレしちゃったわけです。

お引っ越し。ご近所づきあいが極力少ない場所を求めます。火星がうってつけ。開発に失敗した閑散ニュータウン。一戸建て。格安。メンタルのヘルスをアレしちゃっている奥さんにとって、うってつけの新居です。

大宇宙時代においては、火星地球間を片道2時間で通勤できます。新幹線みたいなものです。夫は妻を愛している。妻も夫を愛している。問題なし。

火星は良いところでした。新生活が始まって、奥さんのメンタルなアレも(`・ω・´)して、夫の股間も(`・ω・´)したので、ようやく人生の喜びを取り戻すのです。

ちなみに。この時代の人類は、火星人とのファーストコンタクトを済ませています。それどころか、さまざまな異星人との交流があります。

星が変われば、品変わる。火星上において、夫婦は様々なカルチャーショックを受けているうちに、こまけぇことを気にしなくなります。ちょっとエッチな部分を引用します。

 夜の営みも様々だった。猫のようなやかましい声が聞こえてくるかと思うと、野外でするのが一般的だという人類もいた。ムチやロウソクに似た物を使う人類もいた。それは彼ら自身がそれが自分たちの極めてノーマルなセックスなのだと言っていたから、きっとそうなのだろう。

 また夜ではなく、朝の営みをする人類もあった。確かに寝る時間帯を考えなければ、営みなど夜でも朝でも良かったのだ。敬子は少なくとも、朝に営むには気持ちが乗らないと思っていたようだが。

 隆志と敬子はそんな営みに囲まれて毎晩過ごしていたので、いつしか地球上では考えられない程に大胆になっていた。結構、窓は全開だった。外も有りだった。

>結構、窓は全開だった。
>外も有りだった。


(*´ω`*)ケシカラン オハナシ デス

小心旅行


これは…まあ、さほど語ることはありません。習作です。

廃塔


本書『皿上の空論 ~他四編 短編集~』における唯一の短編小説です。ショートショートに比べて読み応えがある。しかもコメディではなく、ややシリアス系であって純文学っぽい。とはいえ、やはりユーモアがにじみ出ている。そんな印象。

冒頭部分を引用します。

 あの塔に登る明確な理由など存在しなかった。そこに塔があったから、と言えば聞こえはいいが、残念ながらもう一〇〇年も前からずっとそれは幾多の建築物に囲まれながら無言でそびえ立っていたし、僕は人生の半分以上はその塔をただただ眺めるだけで過ごしてきた。そして一度たりとも登ろうなんて思わなかった。

 打ち捨てられた鉄塔。かつて観光客や地元の暇人の多くを楽しませていたはずのその塔は、今はもう入り口さえも厚い鉄板で塞がれている。したがってまともに塔の中へ入る手段はなかった。しかし、だからこそ、リュウジはあの塔へ登ろうと僕を誘ったのだ。

成人式帰りのふたりの若者が『廃塔』に侵入して、最上階を目指します。

この物語は、400字詰原稿用紙80枚の長さです。冒頭から中盤にかけては、ちょっと退屈なのですが、最上階にたどり着いてから動きがあります。

━━幽霊に出会うのです。

「あんたはここに住む幽霊なのか?」

 リュウジが低い声で口早に言った。それを聞いて相手ははたと足を止めた。既に僕たちの一メートル半くらい前までやって来ていた。

 「俺は幽霊か?」自問のような口調だった。「……そう、俺は間違いなく幽霊だ。そしてお前らはあの薄汚れた世界の亡霊たちか」

(中略)

「でもおかしい。あんたには足がある。幽霊なのにさ」リュウジが言った。

 それを聞いて、中年の幽霊は低く笑った。それは展望台の中で干渉するみたいに響いた。冷蔵庫のブーンとなる音に似ていた。すこぶる不気味な声だった。

「お前はエチオピア人がどんな顔をしているのか、知っているのか? コンゴ人は? ナイジェリア人はどうだ? 地球上にいる人間の全てすら、お前は理解していない。そんな程度の奴に幽霊の何がわかる?」
「足がある幽霊もいるっていうのか?」
「さあな。他の幽霊を俺は見たことがないし。少なくとも、俺には足がある。それがない理由もない」

こんな感じで会話劇が繰り広げられます。幽霊(?)のくせして、安部公房の『幽霊はここにいる』という戯曲を引用しはじめたり、やけに理屈っぽい憎めないやつです。はたして本当に幽霊なのか?

気になった人は、ぜひ本書を手にとってみてください。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「ユーモア」度
★★★★☆(4)
「SF(すこしふしぎ)」度
★★★☆☆(3)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


友瀬通さん。『ともせ・とおる』と読みます。1975年、大阪市生まれ。電子エンジニア。趣味は観劇、旅行、自作PC、スピーカー作りなど。


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