こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・白い錠剤ボリボリ系の中二病ヒロイン
・2つの寓話のなかに、悲劇の真相が潜んでいる!?
・ミステリーと幻想に満ちた異色のライトノベル

雪の女王雪の女王 [Kindle版]
一田和樹 (著), 佐倉さく (イラスト)
出版: 惑星探査商会; 1版 (2014/2/25)

切ないほどに凄惨な少女と少年の物語。青春小説。

庫裡野歪莉(くりの わいり)は、完璧な美少女だが、妄想世界の住人だ。テロリスト集団『雪の女王』が世界を破滅させようとしている、と言いだし、意味不明の言動を繰り返し、教師をナイフで刺したりするようになった。

学校で孤立した歪莉を相手にするのは、オレと生徒会長の二人だけ。

歪莉は、アルミニウムという少年の物語を語りだし、オレの引きこもりの兄貴は、世界中を白い虫の卵が埋め尽くす物語を書きはじめる。三つの世界が交錯する中、歪莉は雪の女王が五日間で世界を滅ぼすと言い出した。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

キケンな美少女


「姉貴はね。雪の女王の手先に殺されたんだ。自殺なんかじゃない。でも、誰もあたしを信じてくれないんだ。わかる? あたしの悔しさがわかる?」  

雪の女王』から引用 以下、同じ

発言の主は、庫裡野歪莉(くりの・わいり)。美少女の女子高生です。「女王の使い魔がいる」と言って、数学の教師をナイフで刺したことがあります。

面白い。中二病の美少女ヒロイン。
真っ先に連想したのは、田中ロミオ『AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~』というライトノベルです。最近であれば、京アニの『中二病でも恋がしたい! 』を連想する人も多いでしょう。

本書『雪の女王』は、中二病ヒロイン物語の亜種ですが、ややシリアス寄りと申しましょうか、物語中盤において、ヒロインが人を殺します。

白い錠剤ボリボリ系の中二病ヒロイン


あらすじ。高校生の心太は、幼なじみの美少女・歪莉に「一緒に戦ってほしい」と懇願される。雪の女王というテロリスト集団の存在を信じており、唯一対抗できるのは火星の戦士だという。

幼なじみの歪莉は、不安がなくなるクスリだという白い錠剤をいつもボリボリかじっており、ナイフも持ち歩いている。心太は、歪莉に殺されるのを恐れて承諾する。

てはじめに活動拠点を調達することを決める。美少女で頭脳明晰な歪莉は、高校の『チェス部』に押しかけ、部長を打ち負かし、乗っ取ってしまう。

と、ここまでが全体の10%。ハルヒを彷彿とさせる学園ライトノベル━━では終わりません。心太のもとに、歪莉から長文メールが送られてくるところからが本番です。

2つの寓話


本書『雪の女王』には、心太と歪莉のエピソードと平行する形で、ふたりの差出人による長文メールが断片的に挿入されます。
ひとつは、歪莉が語る『自分を監視しているアルミニウムという存在の生い立ち』。もうひとつは、心太のひきこもり兄が語る『世界が白い粉で埋めつくされる話』。

寓話ひとつめ。『マガミちゃん』は、親とケンカをして家出した(ワナビーな彼氏とつきあっていたことがある)19歳のデリヘル嬢。あるとき、3歳だった監視者『アルミニウム』を拾います。

━━マガミちゃんは、誰のことか? 順当に考えれば、XXXXXを示唆しているように思います。ネタバレになるかもしれないので伏せ字にしておきます。

その証拠に、たびたび『アルミニウム』は死を象徴する存在として描かれています。マガミちゃんに嫌われたのち世界を流浪するアルミニウムは、寓話の結末において、ふたたびマガミちゃんと再会を果たします。

寓話ふたつめ。それは『マガミちゃん物語』に対するアンサーストーリーです。
歪莉に感想を求められた心太は、ひきこもり兄に代筆を頼みます。なぜなら、心太の兄は小説家志望(ワナビー)だった時期があるからです。

「アルミニウムってオレのことだ」

それから兄貴は、しゃがみこんで声を出さずに泣き出した。

心太の兄は、一昨年に突然ひきこもりになり、最近ひさしぶりに部屋から出てきました。
弟(心太)に頼ってもらって嬉しかったこともあるのでしょうが、歪莉が綴る『マガミちゃん物語』を、深刻に受け止めざるをえない事情があるのかもしれません。

心太の兄が綴る『世界が白い粉で埋めつくされる話』━━白い粉に見えるものは、じつは虫の卵であり、体内に入ると孵化して内側から食い破られて死に至る。単純な連想を働かせるならば、麻薬や覚醒剤を暗示しているのかもしれません。

さまざまな謎


本書『雪の女王』は、支離滅裂なヒロインが生み出した支離滅裂なストーリーとして読むことも出来ますが━━やはり、何らかの一貫した真相を語っているようにも受け取れます。

向精神薬のようなものを常用しているヒロインの言動や寓話、中盤以降に発生する理不尽な殺人。きわめつけは、終盤における、いままでの経緯や世界観設定を覆すようなエピローグ。

冒頭から結末まで、まったく油断できない、ミステリーと幻想に満ちた異色のライトノベルです。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • 雪の女王
  • 著者:一田和樹 イラスト:佐倉さく
  • 価格:250円
  • 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)

「歪莉カワイイ」度
★★★★☆(4)
「幻想」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


一田和樹さん(@K_Ichida)。『いちだ・かずき』と読みます。ふたつペンネームを持つ。「一田和樹」名義ではサイバーセキュリティミステリ、「いちだ かづき」名義ではファンタジー小説を中心に執筆している。


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