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つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・これはすごい
・とにかく読め
・社会主義カレー

明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝! 上巻明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝! 上巻 [Kindle版]
維羽裕介 (著)
出版: 維羽裕介; 1.1版 (2013/9/14)

明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝! 下巻明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝! 下巻 [Kindle版]
維羽裕介 (著)
出版: 維羽裕介; 1版 (2013/12/25)

一人はかつての雪辱を果たすために、一人は伝説に終止符を打つために、一人は高校進学を有利にするために、一人は嫌いな先輩に恥をかかせるために、一人は犯罪行為を黙秘してもらうために。

世界大会でもないし、全国大会でもない。県大会でも市大会でも区大会ですらない。閑静な住宅街にある一つの中学校で繰り広げられる、夢と希望に満ち溢れた少年少女のポーカーを巡る物語。

上巻※文庫本換算:約245ページ(縦40字×横17行)
下巻※文庫本換算:約314ページ(縦40字×横17行)

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

このKDP本がすごい大賞 候補作


はじめに断言します。この小説は画期的であり、娯楽作品としても優れている。要するに、とても面白い。

文庫本に換算すると559ページ。長編です。平均的な文庫本の1.5倍以上あります。読み終えるまでに5~6時間は必要です。でも、ほとんど気になりません。

登場人物、文体、ストーリー展開。すべてにおいて水準以上。卓越している。これは本当に面白い小説です。断言。

題材は、テキサス・ホールデムというトランプゲーム。ポーカーの一種ですが、一般的なイメージとはかけ離れた、理論と戦略性と記憶力を要求される高度な知的ゲームです。遊びだけど、遊びじゃない。

麻雀と同様、素人目には運に左右されるゲームのように見えて、けっしてそうではありません。本書の主人公いわく━━『ポーカーは実力で勝てる

常に最善の手を打っていれば、あらゆるシーンで期待値がプラスになるアクションを取っていれば、いずれは結果が追いついてくる。

さらに、主人公は断言します。

この世のありとあらゆる卑怯者は喜ぶべきだろう。
ポーカーは性格の悪い奴にこそ向いている。

本書のジャンルは、ライトノベル。ただし、内容はガチンコです。559ページの3分の1以上を、ポーカー研究や理論構築、プレイ描写に費やしています。

退屈? たしかに。高度な描写に差し掛かったときには、つい飛ばし読みしたい誘惑に駆られます。でも、いいと思いますよ。はじめは、飛ばし読み気味でも。テキサス・ホールデム戦の疾走感に身を任せて読み進める、というのも、この作品の楽しみ方です。

娯楽作品としての強度が高いので、試合や特訓パートをあまり理解できなくても、この小説の魅力が損なわれることはありません。安心して手に取ってください。

大筋は 無名の中学生プレーヤー5人が、学校一の強豪ポーカーサークルを打ち負かすべく奮闘する というもの。

必要なのは、勝利。そのための努力は欠かせない。
そして、友情━━これだけは不要です。テキサス・ホールデムの団体戦において、友情なんて1ミクロンも必要ありません。

じつは、主人公の男子中学生はおろか、ほかの主要キャラクターの4人も、自分の利益のことしか考えていないのです。
それにもかかわらず。彼らは団結して、10年のあいだ学校に君臨し続ける伝説的強豪サークルと互角のゲームを繰り広げることができるのです。

この点が、学園青春小説として型破りなところ。

そして、社会主義カレー。わかりますか? 本編において登場する秋山瑞人ネタです。わかりますね?
本書の著者は、SF作家・秋山瑞人に影響を受けたことを公言しています。そして、発言に恥じないだけの小説を書いています。すばらしい。

前置きが長くなりました。

あらすじ


この東本郷中学校の生徒なら三人に二人はポーカーができるし、その二人のうちのどちらかはポーカーサークルに所属している。

生徒たちは運動部や文化部に所属していますが、さらにポーカーサークルにも所属している場合が少なくありません。つまり、ポーカーは別腹。ポーカーが好きすぎる中学生たち

本書『明浜市立東本郷中学校ポーカー列伝!』におけるポーカーは、テキサス・ホールデムという種類のカードゲームを指しています。主人公いわく━━

 日本の誰もが知ってるポーカーは、既に世界中から廃れ去っているのだ。

 そう、五枚のトランプを手にして手札をチェンジするあれだ。個人的な所感を述べさせてもらえるのなら、あれはもうポーカーとさえ呼んじゃいけない代物だと思っている。

テキサス・ホールデムは『世界中の何処にあるカジノに行ってもプレイできる世界標準ルールのポーカー』です。

毎年、世界大会が開催されるほどであり、参加費が100万円であるにもかかわらず6000人以上が参加します。
600位台でも賞金200万円、70位あたりが1000万円プレーヤーであり、優勝すれば8億円をゲットできるそうです。

明浜撲克倶楽部


ポーカー狂いが集う東本郷中学校において、10年間その頂点に君臨している伝説的な強豪サークルです。

現在は9代目であり、明浜撲克倶楽部の名においてテキサス・ホールデムの団体戦で主将を務める者が、東本郷中学校におけるトッププレーヤー、ナンバーワン、この小説のラスボスです。

主人公の浦原甚助は、学校一の嫌われ者として有名でした。なぜか? 卑怯者だからです。

甚助が1年生のときに、ほかの4人と組んで、明浜撲克倶楽部に勝負を挑みました。そのときに、彼だけが敵前逃亡したのです。経緯を説明します。

それは、王座戦の出来事でした。いわば、下克上です。明浜撲克倶楽部は、いつ如何なるときでも他サークルからの挑戦試合を断ってはならない。
負けたサークルのプレーヤーは『ポーカープレイヤー認定証』を剥奪されます。卒業するまで校内ではプレイ不可になるのです。

甚助は逃げました。試合会場に向かう途中で「忘れ物をした」と言い残し、敵前逃亡したのです。当時、1年生だった彼は、認定証を剥奪されたあとの2年間の虚しい日々を想像してしまい怖気づいたのでした。

それから1年が経った、現在。ポーカーの遊び相手どころか、教室でも孤立しがちな甚助のもとに、ひとりの転校生があらわれます。

ポーカーに復讐する!?


転校生━━名前は、江頭妙子。おなじ2年生。ふとしたことから言葉を交わしたついでに、甚助は、学校の文化やポーカーのルールについて教えてあげました。

その数日後。有名な中堅ポーカーサークルが壊滅します。たった1人の生徒が試合を挑み、5人抜きを達成して、部室を乗っ取ってしまったのです。

道場破りの主は━━江頭妙子でした。ふたたび浦原甚助のもとを訪れた彼女は、おどろくべき提案をします。

「浦原くんの望みを叶えてあげるよ」

浦原甚助の望み━━明浜撲克倶楽部に王座戦で勝利すること。つまり、新たにポーカーサークルを結成して、10年間も君臨している伝説的強豪サークルを蹴落とす、という意味です。

あまりにも無謀。彼女は、彼に恋をしたのか? 違う。ぜんぜん違います。言っておきますが、この小説には恋愛のれの字も出てきません。

「わたしはおもちゃ箱が欲しい。わたしの好きなようにできて、何一つとして文句も言わず、手となり足となるおもちゃの兵隊が入った箱が欲しい。」

すべては復讐のために。10年間守られてきた玉座を虎視眈々と狙う江頭妙子は、さしずめ女王候補といったところでしょうか。

学校一の嫌われ者とはいえ、相当な実力者である甚助を取り込んだ妙子は、乗っ取った部室を拠点にして、団体戦に必要な残り3名のスカウトに奔走しはじめます。

過去への復讐を胸に秘めた転校生や学校一の卑怯者をはじめとして、賭けポーカーを用いる恐喝で有名な不良、全テストオール0点のおちこぼれ、違法オンラインポーカーで荒稼ぎしている天才中学生━━ひと癖もふた癖もあるメンバーをスカウトする過程は、本書における見所のひとつです。

脳を酷使するカ・イ・カ・ン


本書は、上下巻の構成です。

上巻は、甚助と妙子の出会い・メンバースカウト編が収録されています。まあ、さしずめ『涼宮ハルヒの憂鬱 第1巻』と同じようなことを繰り広げます。コメディタッチのドタバタ劇。

下巻は、夏休み特訓が50%・秋期公式団体戦&王座戦が50%━━という構成。テキサス・ホールデム描写が満載であり、登場人物たちも本編中においてブドウ糖を、むさぼっても追いつかないほど脳を酷使しています。

本書はライトノベル風味ですが、けっして幼稚な展開や描写はありません。
主題が本格ポーカーなので、将棋や麻雀などの勝負師小説の雰囲気が色濃いです。大のオトナが読んでも、けっして白けることはないと思います。

本編中には、適切な位置にテキサス・ホールデムのルール解説が理解度に沿って挟まれており、すこしずつ理解しながら読み進められるよう工夫を施しています。入門者向けのテキストとしても使えるのではないでしょうか。

何度も繰り返しますが、トランプゲームに関する小難しい場面は読み飛ばし気味でも影響ありません。(もちろん、理解できた人や経験者ならば何倍も楽しめる)

とにかく、勝負事に真剣に取り組んでいるせいか、大人びた中学生たちの会話や薀蓄が面白いのです。
本文中には、映画や小説にまつわる引用も多く、地に足のついた知性を感じさせる文章でもあります。

結論。良いライトノベルには、そもそも、難聴性主人公や変態やラッキースケベなんて必要ない。ひさしぶりに硬派なライトノベル(ジュニア小説)を読むことができました。すばらしい。

テキサス・ホールデム愛好者はもちろんのこと、麻雀漫画や麻雀小説が好きな読者には、たとえ休日を半分つぶしても読んで欲しい長編小説です。本当に素晴らしい。ポーカー最高!

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「ゲーム小説」度
★★★★★(5)
「エンタメ」度
★★★★★(5)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★★(5)


著者について


維羽裕介さん(@ibastrange)。『いば・ゆうすけ』と読みます。海外のプレイルーム経験もあるテキサス・ホールデム愛好者。


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