こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・気鋭のセイシュンフィクション第2弾
・けっして退屈させないストーリー展開
・ハタチの年に経験した、生と恋と死の記録

僕はハタチだったことがある僕はハタチだったことがある [Kindle版]
藍田うめる (著)

「僕はハタチだったことがある。多くのひとがそうするように、僕もそこを通り過ぎた。何も特別なことじゃない。取り立てて変わったことが起きたわけでもない。当たり前の喜びや悲しみ、迷い、苦しみ、そんなものがあっただけだ。ただ、それらには必ず君の存在がついて回った。君がいたんだ。どうしようもなく」

凡庸な僕が君といた決して美しくはないハタチの日々。「君」に振り回されながら、「僕」が最後に得たものは……。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

はじまりの夜


相馬聡太(ソウタ)、19歳。コンピューターグラフィックス系の専門学校に通う、昼間部の2年生。優秀な成績をおさめていたソウタは、学校の要請で、夜間部の助手を務めることになります。

出会い。夜間部に通っている早田鈴(リン)という若い専門学校生━━いつも年上の男を1人引き連れている、黒髪の美少女です。
トレードマークは、ミントタブレットのケース。それを2粒3粒放りこむ姿が、とても様になっていました。

あるとき、誘われます。リンの自宅マンションに。彼女は奔放で積極的でした。いままでに経験がないソウタは戸惑います。

「気持ち良くしてあげるから、あたしのこと信じてね」

僕はハタチだったことがある』から引用。以下おなじ

いきなりズボンを脱がされて、戸惑ったソウタが抵抗すると━━

「相馬くんがパンツを下ろしたら、あたしも、一枚脱ぐ。どう?」

ソウタが言われたとおりにすると、彼女は、さらなる要求を突きつけてきます。

「あたし、こう見えて、男の人が怖いの。いきなり乱暴になる人もいるって言うでしょう? そういうの怖いの。だから約束してくれる? 乱暴はしないって」

リンに言われるがまま。ソウタは両手を縛られ、目隠しをされてしまいます。

さあ、ようやく男の子と女の子の気持ち良いことが始まるぞ━━と思いきや。身動きのできないソウタに向かって、リンが自分の秘密をひとつだけ打ち明けます。

どこかが、カユイのよ。確かにカユイのに、どこがカユイか分からないの。あたしは全身を掻きむしった。血が滲むくらいに。

(中略)

だから、あたしはケースを三つ持ち歩いているの。トランキライザー。睡眠導入剤。そして本当のミント。

相手がまともな人間ではないと悟ったときには、時すでに遅し。拘束と目隠しをされたまま、巧みな指の動きに導かれて、ソウタはイカされてしまいます。

放液による、しばしの余韻に浸ったあと。リンが、ソウタの目隠しを取り外します。

僕は容易には信じられないものを見る。タカハルがいた。少し苦い表情をしながら、視線を逸し、タカハルは頭を掻いていた。君は言った

「さて、あなたをイカせたのは、どっちだと思う?」

タカハル━━いつもリンと行動を共にしている27歳の男です。リンとタカハル。はたして、どちらがソウタをイカせたのでしょうか?

この出来事を境にして。いままで平凡だったソウタの19歳の夜は終わり、20歳(ハタチ)という非日常が幕を開けます。

あの夜のビデオテープ


あのとき、誰の手でイカされたのか?
ソウタが悶々とした日々を送っていると━━昼間部に編入生がやってきました。

リンとタカハルです。ソウタは夜間部の助手を断ったばかりでした。この2人と顔を合わせたくなかったからです。

リンは告げます。『あの夜のこと』を録画したビデオテープがある。言うことを聞かなければ『あの夜のこと』をクラスのみんなに広めてまわる━━。

こんな感じで、ソウタとリンの奇妙な関係を軸にして、本書『僕はハタチだったことがある』では、さまざまな事件が描かれています。

ソウタは、リンにさんざん振り回されていくうちに自暴自棄になり、まるでスイッチが入ったかのように若い性欲を持て余しはじめます。

たとえば、興味がなかった同級生の女子と軽い気持ちで付き合い始めたり。バイト先の女子高生をスケベ心で部屋に招き入れてしまった挙句に、自宅アパートを乗っ取られてしまったり。夜間部助手のときに知り合った熟女生徒を、溜まった性欲のはけ口にしてしまったり。

あの夜をきっかけにした心境の変化が、いままでおとなしく生きてきたソウタに、多くの冒険と災厄をもたらすのです。

サービス満点のつくりばなし


本書『僕はハタチだったことがある』の主人公であるソウタは、ありえないほどモテます。リンをはじめとして━━様々な女性たちが、彼の関心を引くために立ち回るのです。

しかし。実態は『ツケこみやすい男』なのであって……。本気でソウタのことを愛しているのは、トランキライザーや睡眠導入剤を常用しているリンだけなのです。
そんなリンですら、結果的には…………最後まで読めばわかります。いずれにしても、単純なご都合主義ハーレム小説ではないことを保証します。

感想


著者はイジワルな御仁です。とにかく登場人物たちの運命を徹底的に弄んでみせます。本書においては、普通じゃない人のほうが多い。読者が顔をしかめたくなるような過去や秘密を抱えている人間ばかりです。

一見すれば平凡に見える主人公ですら、血統にまつわる秘密を抱えています。

ですから、退屈しません。『事故』・『病気』・『禁断の愛(近親、同性)』・『とつぜん訪れる死』などのオンパレードであり、イベント盛りだくさんです。

その一方で、物語展開を作り込みすぎているために、一気読みは推奨できません。胃もたれ、あるいは、二日酔いするからです。

わたしの場合、一気に読んでしまった翌日未明に、夢を見ました。本書の一部ストーリーが映像をともなっていたのです。わりと泣ける部分が再生されたので、目が覚めたあと、5分ほど茫然としたことを報告しておきます。

本書は、有り得ないことが次々と起きるデタラメな物語です。それは著者自身が『あとがき』においても認めています。

書いている時、念頭に置いているのは、ゆるくて、デタラメな読み物をかけたらいいな、ということです。それは、前作「僕のセイシュンの三、四日」においてもそうでした。

KDPで電子出版するとは言え、正式な商業作家ではないからこそ許されるスタンスだと思います。手を抜いているというわけではありません。

前作も、今作も、一生懸命書いたつもりです。至らないことがあれば、それは力量不足ということでしょう。言い訳はしません。読ませてしまってごめんなさい。

『著者あとがき』から引用

当ブログでもレビューしたことのある、前作『僕のセイシュンの三、四日』も、次から次へと意外な事実が判明していくジェットコースター小説です。

わたしは、共通点を見出しました。
前作、本作ともに━━主人公は一生に一度あるかないかの経験をします。しかし、物語のエピローグにおいては、いずれの場合も残りの人生を何者でもない一市井として生きる姿が描かれています。

あたかも、非現実的な出来事を一生ぶん体験してしまった帳尻を合わせるかのように。

前作においては、ご都合主義ともいえる怒涛のごときストーリー展開を「やりすぎだ」と思っていましたが、じつは虚構とリアリティのバランスを強く意識している作風です。おみそれしました。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「退屈しない」度
★★★★☆(4)
「M男をめぐる冒険」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


藍田うめるさん。『あいだ・うめる』と読みます。ウェブ上に情報がありません。SNSアカウントもブログもない、謎の作家です。

良作だった第1長編『僕のセイシュンの三、四日』を読んで、もしかしてプロの変名か?とも思っていましたが、本書の『あとがき』を読む限り、ちがいました。
いずれにせよ、実力派です。興味のある方は、ぜひ。

ちなみに。本編の節々において『機動警察パトレイバー』大好きオーラを醸し出しています。特に、第二小隊の某隊長のことが。(゚∀゚)人(゚∀゚)ナカーマ


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