こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・自信がない夫たちの4編
・妻と子に疎外される宿命
・夫婦間における禁断の質問とは?

若い夫婦がベッドの中で話すこと: 夫婦に関する純文学短編集若い夫婦がベッドの中で話すこと: 夫婦に関する純文学短編集 [Kindle版]
高橋熱 (著)
出版: 高橋熱; 2版 (2014/4/4)

順風満帆に見える夫婦の内なる苦悩。 思い通りにいかない妻の苛立ち。 些細なトラブルから引き起こされるすれ違い。

現代に生きる若い夫婦や家族の闇を、日常の様々な角度から見つめた短編小説集です。

【収録作品】
1.『若い夫婦がベッドの中で話すこと』
2.『湿疹-ステロイドと赤い下着』
3.『夫も私も、いない家』
4.『青虫』

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

『若い夫婦がベッドの中で話すこと』


全裸のふたりが、寝室でぼそぼそと会話している。子供を実家に預けて、ひさしぶりに夫婦だけの夜をすごしていた。

夫は、まだ妻に性的魅力を感じている。愛していた。相手も当然、自分とふたりきりの時間を過ごしたいだろうと思っていた。ずっと育児に追われてきた妻を気遣ったつもりだった。

彼は、軽い気持ちで問いかける。「おれたち、幸せだよな?」と。
返ってきた答えは……なにやら煮え切らない。どうやら、妻はいまの生活に大満足しているわけではないらしい。

「100%幸せ」という答えが返ってくることを期待していたのに。根拠のない自負があった━━この夫でなくても、男という生き物にはそういうところがある。

夫は、挽回したいと思った。つぎに、こうして夫婦ふたりきりになれるのは、いつの日になるかわからない。
実家の都合ではなく━━妻がまだ幼い息子と1日たりとも離れたくなさそうだから。恋人であり夫であるはずの自分のことを差し置いて。

春人は再び喉の渇きを覚えたが、今度は我慢することにした。佳子の側を離れてはいけないような気がした。

「ちょっと出かけない?」と春人は言った。「夜景が綺麗に見える公園があるらしいんだ。ここから二十分もかからないところに」

夫婦に関する純文学短編集』から引用。以下おなじ

深夜2時にさしかかろうとしていた。気が進まないという妻を、なかば強引に車に乗せる。

これが、いけなかった。たった20分のつもりだったドライブが……おそらく20年は尾を引くであろう厄介事を招くことになる。

夫が運転する車は、猫を轢いてしまう。挙句に、ガス欠で立ち往生。行き場のない車内に漂いはじめた気まずさのなかで━━妻は、告白をはじめる。

深夜2時。この時間に決して越えてはいけない境界(寝室)を抜け出してしまった男と女。かつては恋人だったはずの女━━妻という生き物が、得体の知れない何かに変容する瞬間を描いたクライマックスは必見です。

キアヌとサンドラ


わたしは結婚したことがないので、本書における『既婚者心理にまつわるリアリティ』に関して、偉そうに述べることはできません。

でも、これだけは言えます。かつては強く惹かれあい仲睦まじかったであろう夫婦や恋人たちが、冷めていたり不仲に陥っている様子を目にするとき。他人事なのに気持ちが沈みます。

いまでも忘れない。男女関係にまつわる、わたしのトラウマ。
大ヒット映画『スピード』です。爆弾バスなどの危機を乗り越えて、同乗していたキアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックは、物語のラストにおいて熱烈にブチューして結ばれます。

しかし……。続編の『スピード2』では、主演のサンドラはキアヌとあっさり別れちゃったという設定になっており、リーブスはフェードアウト。

当時、多感なティーンエイジャーだったわたしは、フジテレビ系列でこの映画が放映されるたびに物悲しい気持ちになったものです。

感想


今回ご紹介した冒頭収録作品のほかにも、夫婦━━とくに男性側の痛いところついた作品を収録しています。

人生の重荷を背負いたがらない専業主夫を描いた……『湿疹-ステロイドと赤い下着』

乳飲み児を抱える妻が働かない夫に愛想を尽かして、徐々に心が離れていく日々を描いた……『夫も私も、いない家』

ディナーのサラダに使うつもりでいた有機農法レタスに、青虫や大量のアブラムシが付着していた。買い求めた八百屋への怒りをこらえきれずに取り乱す妻。
夜遅くにもかかわらず、八百屋のオヤジが自宅までやってくるのだが━━謝るどころか、有機農法の正当性を説き、しまいには国の政治や経済界に対する憤りをぶちまけはじめる……『青虫』

本書は『純文学』と銘打っていますが、とても平易な言葉で綴られているので読みやすいです。
シリアスなテーマを扱っていながら続きが気になるエンタメ性を備える趣は、NHKの良質な社会派ドラマのごとく。オススメの作品集&作家です。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「日常にひそむ不穏」度
★★★★☆(4)
「家庭崩壊」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


高橋熱さん(@Atsushi_Takah)。『たかはし・あつし』と読みます。

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コメント

 コメント一覧 (2)

    • 2. 高橋熱
    • 2014年06月01日 04:52
    • 本来は虫がついて当たり前ですが、最近はそれがクレームになってしまう世の中。
      そうした風潮を小説にしてみたら、こんな小説になりました。
      「虫が安心して食べる野菜」は、人間も安心して食べられるってことですから。
      コメントありがとうございます。
    • 1. あ
    • 2014年05月31日 08:22
    • レタスなんかに小さい青虫がいることがけっこうあるのですが、
      クジに当たったような気持ちになって嬉しくなる。
      農薬が少ない安全な食物って証拠だから。
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