こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・むかし抱いた少女の悲しき裏の顔とは?
・竹取物語オブザリビングデッド
・『女帝』が好きな人なら絶対に楽しめる

綾 [Kindle版]
龍淵 灯 (著)
出版: 龍淵灯; 初版 (2014/3/3)

杉浦が赴任先の熊本で会った少女は、中学生のときに欲望に抗えず抱いてしまった少女だった。

当時と変わらぬ姿の少女に、自分の子供である可能性を感じた杉浦は、真実を確かめるため数年ぶりに故郷に帰る。
そこで見たのは、杉浦の知らなかった故郷だった。

表題作の他、ゾンビの大群に追われるかぐや姫を描いた「地天の姫」を掲載。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

本書『綾(あや)』は、2編の小説を収録している短編集です。

表題作。高校進学をひかえた春━━たった1度抱いたあの日から15年以上を経て、綾の出身地である熊本で、うりふたつの少女を見かける。

「もしや自分の子ではないか」という罪悪感と好奇心に突き動かされて、男は綾の消息をたどることを決意するのだが……

もうひとつは━━かぐや姫にフラれた貴族が、ゾンビになって再び(捕食という名の)求愛をする話。
竹取物語を大胆にパロディ化した、SF伝奇バトル小説。

『綾』


男は、転勤先の熊本県で、忘れえぬ少女そっくりの人影を見かける。
いつかの少女━━古庄綾は、15歳の春に衝動のままにいちどだけ抱いた、熊本出身の転校生だった。

あの春の日。とくに親しかったわけではないのに、ショウブ園で出会って5分ほどですぐに合体した。綾は、嫌がるそぶりを見せなかった。それどころか……

 いつのまにか、綾の尻に硬くなった僕自身を押し付けていた。
(中略)
「硬かね……杉浦君、うちでこがんしよっと……?」

』から引用。以下おなじ

 綾は体の力を抜き、てのひらを僕の手に重ねてきた。そして、

「うち、杉浦君の行きたかとこば、どこでん行くけん……」

 濡れた声でそう言った。

熊本弁のすさまじい威力(`・ω・´)シャキーン

あれから15年が経った。街のなかで見失ってしまった綾そっくりの少女もそれくらいの年齢だった。

「まさか」。罪悪感と好奇心を抑えきれなくなった男は、1週間の有給休暇をとって帰郷して、綾の消息をたどることにしたのだが……。

男と女のノスタルジアを描いているところは、弘兼憲史の漫画作品━━たとえば『黄昏流星群』や『人間交差点』を思い起こさせます。これはいい。好きです。

帰省した男が、同級生や地元民から得た新事実は━━思い出を汚すような、耳をふさぎたくなることばかりでした。知れば知るほどに、聖少女の思い出がゆがんでいくのですが……。

ショウブ園における、綾の熊本弁によるイチャイチャシーンは、まさに『女帝 第1巻』を彷彿とさせるものです。

あの有名作品が火の国生まれの強い女を描いているのとは対照的に。本書では、哀れすぎるほど不幸な末路をたどる少女の人生が明らかになります。

『地天の姫』


かぐや姫の無理難題につきあって具合を悪くした貴族が、謎の人物が差し出した秘薬をのんだあげくにゾンビ(食人鬼)と化して、仲間を増やしながら、かぐや姫の屋敷を襲う話です。

かぐや姫が危機的状況に陥ると、良いタイミングで月の使いが到着するのですが……姫の味方であるとは限りません。

帝の軍隊と月の使者たち、ゾンビ化した貴族や兵士や庶民たちが入り乱れて━━クライマックスにはバトル描写もあり、竹取物語のパロディを週刊少年ジャンプに掲載するなら、この短編小説のようになりますね、おそらく。

読んでいて連想したのは、ジャンプSQで連載されていた『月華美刃』です。竹取物語のSFパロディ&バトル漫画であり、打ち切りみたいな終わり方でしたが、好きな漫画でした。

感想


今回のレビューは、マンガにたとえすぎてしまいました。でも、表題作の『綾』なんて、まさに倉科遼&和気一作コンビによる漫画(劇画)みたいな作風なのだから仕方がありません。

安っぽいとか低俗であるとか、そんなことを言いたいわけではなく。小説と漫画を比べて、上も下もありません。

著者の龍淵灯さんは、リアリティを抑えることで生まれる類のストーリテリングが体に染みついている娯楽小説の書き手である、ということを皆さんに知ってほしいわけです。

収録作『綾』『地天の姫』のいずれも、漫画原作としては、かなり上等な部類に属します。
いずれの作品も、たとえば『週刊漫画ゴラク』にのっていたら、読者にけっして少なくない満足感を与えることでしょう。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • 著者:龍淵 灯
  • 価格:250円
  • 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)

「パロディ」度
★★★★☆(4)
「漫画みたいな小説」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


龍淵灯さん(@jumei_kuga)。『たつふち・あかり』と読みます。長編新人賞を取って作家として暮らすべく、日夜創作している。
小説を書いたのは『12歳。学校の宿題で自由勉強のため。人間とロボットのコンビの異世界ファンタジーだった』そうです。

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