こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・もしも『バラクーダ』が、ヒトとアロワナに生まれかわったら?
・ボノボ並にホカホカしまくる好色一代男
・鼻をなくしたゾウのはなし 他

午前二時のいきもの園午前二時のいきもの園 [Kindle版]
タダノ ケイ (著)
出版: タダノ ケイ; 2版 (2013/11/23)

しがないフリーターのリュウセイは、交差点で声をかけられたアゲハと恋に落ちてしまう。しかし、転がり込んだ彼女のマンションには、水槽を悠然と泳ぐアジアアロワナのラキがいて……。
人間の男女と一匹の魚の三角関係を描く━━『魚偏に人と書け』。

象園の仲間に、忘れていた誇りを取り戻させようとする象のプーカウ。その努力が実を結ぼうとする直前、彼を待ち受けていた過酷な運命とは。
一頭の象の、不屈の精神と誇り高い生きざまを描く━━『プーカウの物語』。

奇妙ないきものたちの生態を描く、不思議と驚きに満ちた4編。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

いきもの群像


本書『午前二時のいきもの園』は、4編のエピソードを収録している短編小説集です。

『魚偏に人と書け』。前世では、おなじバラクーダの群れにいてシャチから逃げまわっていたという━━2匹の男女と1匹のアロワナたちの奇妙な三角関係。

『オプー』。OLのナナは、いつもコンビニで買い物袋を2枚もらうことにしている。哀しみ(かなしみ)が、ポケットに入りきらないからだ。
不幸な女と、哀しみを食べるペットの静かな生活。

『午前二時のボノボ』。男はひとつの信念をもって、手当たり次第に美女を食い散らかしていた。ラブ&ピース。ボノボのホカホカ(あいさつ)のごとく、性的な快楽こそが人類平和を実現するカギだと確信している。
すべての男性が嫉妬するほど憎らしくてウラヤマシイ━━順風満帆なホカホカLIFE。

『プーカウの物語』。野生に君臨していたタイ王国の誇り高き象(ゾウ)が、ある事件をきっかけにして長い鼻を失ってしまう。
尊厳(そんげん)を奪われたゾウと、人間のゾウ使い、若きゾウたちによる波乱万丈の群像劇。

『魚偏に人と書け』


「だって、ここは彼らの世界なんだもの。うまくいかなくて当たり前だよ」

午前二時のいきもの園』から引用。以下おなじ

実社会で生きづらさを感じている若い男が、交差点で逆ナンパしてきた美女━━アゲハに誘われるまま同棲(どうせい)生活をはじめます。

「人生がうまくいかないのは、わたしたちの前世が魚(バラクーダ)だから仕方がない」。暗闇のなかでアゲハと一緒に水風呂につかっていると、あながちデタラメでもないような気がしてきます。

「海の生き物が陸に上がったらお終いだよね」

スピリチュアル小説として読むも良し。モラトリアム小説と読むも良し。読者それぞれが好きなように楽しむことのできる、押しつけがましさのないリバーシブルな物語です。

『オプー』


 また今夜も寝られないかもしれない。ナナがため息をついた。ため息をつくと、オプーの餌が一つ生まれ出た。ナナはそれを手のひらで受け止めるとオプーに与えた。

 オプーは人の哀しみを食べるペットだった。

OLのナナは、哀しみ(かなしみ)をエサにするペットを飼っています。

悲しみは、ひとつではありません。種類によって色がちがいます。味も違うのかもしれない。それが『オプー』を満足させていました。

あるとき、転機がおとずれます。イヤな上司がいなくなったことをきっかけに、ナナの哀しみが減っていくのです。

オプーのエサが足りなくなります。こまったナナは、道に落ちているものや、他人が落とした哀しみを拾いはじめるのですが━━。

『午前二時のボノボ』


小説やマンガにおいて、性行為をあらわす音には「ズコバコ」「パンパン」などがあります。この作品では「ホカホカ」と言い換えています。

 そんなわけで僕もボノボを見習って、マユミの機嫌を直すため一生懸命腰を動かしてた。

 ホカホカホカホカ。ホカホカホカホカ。

ホカホカとは、アフリカ大陸のコンゴ共和国に生息しているチンパンジー『ボノボ』の習性です。
ボノボには、メス同士がお互いの性皮をすりあわせて快感をわかちあうことによって、あいさつ代わりとしたり、集団のキズナをたしかめる生態があります。

主人公の男はイケ好かないヤツですが、複数いるxxxxフレンドを相手にホカホカするための情熱や信念にかけては一流の人物です。

あるとき「自宅の天井が垂れ下がっている」とホカホカ相手の女に指摘されます。2階の住人を訪ねたが返事なし。ただよう異臭。
ホカホカ野郎が、その後も自宅に女を連れ込みまくった結果━━。

『プーカウの物語』


タイ王国の草原において「王の中の王」だったゾウのプーカウが、人間に捕獲されてしまう。プーカウは、ヒトを見くだしていました。

場所は変わっても、あいかわらず王の威厳(いげん)を保っていたプーカウは━━あるとき、ヒトの子供を助けるために自動車に激突して、おさない命と引きかえに鼻を失ってしまいます。

鼻は、ゾウにとっての尊厳(そんげん)です。プーカウは、リーダーとしての求心力を失い、それからというもの動物園内でひっそりと息をひそめて暮らします。

おろかな若きゾウたちによる派閥(はばつ)あらそい、見こみのある若きゾウの入園、ゾウたちによる脱走計画の行方などもまじえて語られる、失意のゾウ・プーカウによる一代記です。

感想


巻末収録『プーカウの物語』あとがき━━によれば。
著者がタイを訪問した際に "偶然" 鼻のない象と対面したことによってインスピレーションを得たといいます。

その体験を、現地観光そっちのけで書き下ろしたのが『プーカウの物語』というわけです。

現在ではブログやセルフパブリッシングがありますが、昔ならば、帰国した著者が口承説話として家族や仲間に伝えていたことでしょう。
まさに『プーカウの物語』にまつわる著者エピソードは、ヒトの物語る欲望の実在をあらわしています。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「オトナのおとぎばなし」度
★★★★☆(4)
「まけるなゾウさん」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


タダノ ケイさん(@KeiTadano)。神奈川県鎌倉市生まれ。おもに小説をKindleストアで好評発売中です。

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