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つんどく速報ライター☆イマガワです。
・美大出の高学歴女子が、小さな写真館で働くことに
・いまだに銀塩写真にこだわる老主人
・元はキャリア志向だった女が、挫折から立ち直るまでの日々
つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・美大出の高学歴女子が、小さな写真館で働くことに
・いまだに銀塩写真にこだわる老主人
・元はキャリア志向だった女が、挫折から立ち直るまでの日々
そこここ [Kindle版]
山田佳江 (著)
出版: 無計画書房; 2版 (2014/4/15)
ゆっくりと時間の流れていく街で、博美が見つけたのは『小さな神々』だった。それは、あまりにも存在しすぎていた。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
あらすじ
美大の大学院。キュレーターを目指していたけれど、夢はかなわず。
挫折(ざせつ)と失意のなかで暮らしていた若い女性が、縁あって小さな写真館で働くことになる。
『福山写真館』は、いまだに銀塩カメラ撮影をつらぬいている。
老主人の腕が良く、有名な神社のそばにあるという立地条件の良さも手伝って、デジタルカメラ全盛の現代においても繁盛していた。
威厳のある大先生、イケメンの若先生、ほがらかな大学生アルバイトたち。いつもクロッキー帳を持ち歩いているミステリアスな男子高校生、など。
美術の世界とは関わりのない人たちと同じ時間をすごし、ともに働くことによって。失意にとらわれていた博美が、あたらしい人生にむかって一歩を踏み出す。
ビター&ドライな成長小説
わけありの若い女が、昔ながらのぬくもりある小さな写真館の一員に加わって、気のいい仲間たちと共に働きはじめる━━そんな要素だけをながめれば、TBS系の昼ドラ『愛の劇場』のような、ハートフルドラマを連想しがちです。
本書『そこここ』は、ほのぼのシーンも多いのですが、本質的には主人公のことを突きはなしている小説です。
美術業界への就職がうまくいかず、キャリア志向をしょっぱなから打ちくだかれたあと、抜けがら同然になっている人間に対してとどめを刺すよう内容ともいえます。
とどめを刺す━━と言っても、人生\(^o^)/オワタ という意味ではありません。
ひと握りの存在を目指していた女性が、何者でもなくどこにでもいる人間として生きるチャンスを与えられる、再生の物語です。
クリエイティブ系高学歴女子の末路
美大の大学院出身。一流のキュレーター(学芸員)を夢みて、かつては野心と希望を胸いっぱいに抱えて生きていた女性━━瀬戸博美。
博美は、身を寄せた福山写真館において、七五三や初詣でおとずれる客に対して着付けをおこなったり、撮影の下準備をつとめます。
いずれも、美大の大学院まで出た女性がやる仕事ではありません。べつに職業差別で言っているのではなく、クリエイティブ系高学歴女子の博美にとって、あきらかに不向きな仕事です。
博美は、あえて考えないようにしているのか……自分に言い聞かせているのか……。とくに不満をもらすことなく、写真館の雑用仕事をもくもくとこなします。
冷ややかな人生観
あるとき、博美は、町のそこここに、小さな神々たちを発見します。実際は、石材や壁などに描かれた落書きじみた絵であり、油性マジックによる線描にすぎません。
博美は、その落書きに特別な何かを見いだします。昔とったきねづか、といえば聞こえは良いですが、キュレーター志望だったころの未練でしょう。
そこここに、特別なもの━━神を見いだす。
あたかも、博物館や美術館に勤めていなくても、どこでだってすぐれた芸術を見いだすことはできる、在野のキュレーターたることは可能━━とでも言いたげに。
しかしながら。すぐれた落書きをどれだけ素晴らしいと感じようとも、しょせんは野に咲く花にすぎません。
人類屈指の天才たちの手によってうみだされ、何百年にもわたり人々の評価に耐えてきた美術品をあつかう━━最前線ではたらくキュレーターたちの喜びとは比べ物にならない。
本編において、博美はある事件をきっかけにして、そこここの神々たち に心の底からすがります。「野に咲くうつくしい花を見出した」という自分の行為に、おおいなる意味を見いだし、このうえない充足感をおぼえてしまいます。
このエピソードこそが「とどめ」です。
美術業界のキュレーターを目指していた、高い志を捨てきれずにいた者が、ワラをもつかむ一心で、とうとう手近にあるもので妥協してしまった。
感想
すぐれた才能は、万人には宿らない━━厳然たるこの世の真実を、あえてホームドラマのオブラートに包んで表現している。わたしは、そのように深読みしました。
著者である山田佳江さんの小説は「突き放した書き方をするなあ」と思うことが多いです。人物描写がドライであり、読んでいる者をヒリヒリさせるくらいに乾ききっています。
くしくも、本編中において、甘くてうまそうなラムネ飲料のエピソードがあります。しかし、本書『そこここ』は、ラムネとは対照的な内容です。
読み終えたあとには、本格的なジンジャーエールを飲んだときのような、辛辣(しんらつ)な後味が舌のうえに残ります。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- そこここ
- 著者:山田佳江
- 価格:250円
- 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)
「写真館小説」度 ★★★★☆(4) 「銀塩カメラ小説」度 ★★★★☆(4) 「満足」度 ★★★★☆(4) 「総合」 ★★★★☆(4)
著者について
山田佳江さん(@yo4e )。『やまだ・よしえ』と読みます。福岡県北九州市。ネットの片隅で小説を書き続けている主婦。『よしなが酒店クロニクル ヒロインは未亡人(10才)』で商業デビュー。
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