こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
今回ご紹介するのは山岳にまつわる小説なのですが、登山愛好者や、山岳を題材にしたフィクションの愛読者のみが受容するだけで終わるには惜しい作品です。
登山や山岳という特定対象への興味をはるかに超越した、人間の救いようのない宿業――偏執にとらわれた人間の狂気と末路が、この1冊のなかに詰めこまれています。
つんどく速報ライター☆イマガワです。
今回ご紹介するのは山岳にまつわる小説なのですが、登山愛好者や、山岳を題材にしたフィクションの愛読者のみが受容するだけで終わるには惜しい作品です。
登山や山岳という特定対象への興味をはるかに超越した、人間の救いようのない宿業――偏執にとらわれた人間の狂気と末路が、この1冊のなかに詰めこまれています。
最後の夏山 [Kindle版]
谷山稜 (著)
人は、山と異性を同時に愛せるか? この命題を突き詰めるため、若きアルピニストは北アルプス奥深くに分け入る。
圧倒的な自然に対峙したとき、見えてくる己の姿。現代に生き残ったロマンティストに贈る、山岳シーン100パーセントの小説。主役はあくまで山です。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
あらすじ
「山は男だけの純化された世界だとは思いませんか? 女は邪魔なのです」
この一言こそが、本書の主人公・谷川恒次のすべてをあらわしています。ちなみに、彼は、いまだに生身の女を知りません。
男女が連れだって山へ行くなど以ての外だ。
山へ登り、下りてくる。この行為は運動でも遊びでもない。一つの完結した儀式のようなもので、そこに雑念が在ってはならないし、何より孤独でなくてはならない。
たといパーティーを組んでいたとしても、登っている間は一人一人が単独で山に対峙しているのだ。
――と、こんなことを言っていたくせに、まもなくして主人公は、会社の後輩女性にねだられて、一緒に仲良くハイキングに出掛けます。
山と女、こんなものをどうやって両立させることができようか。(中略)
山中で香子を連れているところを高木と平岩に見られたとき、谷川の登山人生は終わると言ってよかった。
引用中の『香子』というのが、会社の後輩――主人公の恋人です。高木や平岩というのは登山仲間であり、さきほど引用した『山は男だけの純化された世界~』を、主人公が言い放ったときの相手です。
本書『最後の夏山』では、山こそが至上の恋人であると信じきっている登山愛好者の男が、あるとき、生身の若い女から想いを寄せられます。
けっして悪い気はしないものの『それは山に対する裏切りではないか』などと思い詰めたのち、心身ともに破滅の道へと突き進んでいく……という、凄絶な結末の物語です。
感想
主人公の破滅へと至るまでの精神的変遷を積み上げていく筆致は、おおげさに言いあらわすならば山崎豊子作品を彷彿とさせます。
ストーリーも魅力的ですが、本書のキモは、きめこまかい心理描写や、うっとりするような情景描写です。作品内にて、歌い上げるように記述された数十種類にものぼる高山植物の美しさは、たしかな実感として読み手に伝わってきます。
ほぼ満点。読めばわかる
星4つの評価としましたが、実際は4.5くらいです。作品終盤に差しかかると、筆がノリにノッてきたせいなのか、若干、読者を置いてけぼりにしている箇所が少なくないためです。
登場人物たちの暴走ともいえる様相は、むしろ本書の独自性であると強弁できなくもないのですが、人様にオススメする立場としては控えめな評価に落ち着かざるをえません。
普段は点数の内訳には言及しませんが、この創作スタイルや方向性は決して間違いではないことを、著者ご本人にお伝えしたいがため、今回は明記しました。次回作も楽しみにしています。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- 最後の夏山
- 著者:谷山稜
- 価格:280円
- 読了にかかる時間:約2.5時間(個人差があります)
- 「登山ネタ」度
- ★★★★★(5)
- 「迫真の描写」度
- ★★★★☆(4)
- 「いわゆる奇書」度
- ★★★★★(5)
- 「総合」
- ★★★★☆(4)
著者について
谷山稜さん。『たにやま・りょう』と読みます。
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