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つんどく速報ライター☆イマガワです。
今回ご紹介するのは、ループSFと見せかけて、女性におけるマリッジブルーを扱っているとも受け取れる、ハイコンテクストな長編小説です。
つんどく速報ライター☆イマガワです。
今回ご紹介するのは、ループSFと見せかけて、女性におけるマリッジブルーを扱っているとも受け取れる、ハイコンテクストな長編小説です。
リーディング・ナイフ [Kindle版]
山田佳江 (著), たかだのぶゆき (イラスト), 藤井太洋 (イラスト)
出版: 無計画書房; 3版 (2013/4/7)
亮太との結婚を控えた由香は、荷物の整理中に古いノートパソコンを見つける。学生時代に使っていたそのパソコンから、自分宛にテストメールを送ると、九年前の自分からEメールが来た。
『九月十一日のアメリカ同時多発テロ事件以降、もう十回も二〇〇一年を繰り返している』とそのメールには記されていた。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
おことわり
いつもとは趣向を変えて、本レビューは既読者に向けて書きました。ネタバレは含みませんが、いちおう注意喚起しておきます。
本書は、いわゆる『ループ』や『広義のタイムパラドックス』を扱っています。しかしSFというよりも、現代社会で起きた実際の事件を材料にしたファンタジーであると解釈しました。
2013年10月現在、Kindleストアにおけるカスタマーレビューは高評価でもって迎えられており、SNS上においても絶賛する感想が多いです。ウェブ上ではコレとかコレとか。いずれも、未読者にとって購入するときの判断材料になります。
崩壊と災厄とベース音と変な歌
相手のことを愛しているはずなのに、どこからか滑りこんでくる不信感を捨てきれない由香。なにか秘密を抱えているくせに白々しいほどの完璧な笑顔をみせる婚約者――亮太。
物語の序盤から、この一見すると仲睦まじいのになぜか白々しく視えてしまう恋人たちを眺める、というムズがゆさが印象的です。
ふたりのあいだに横たわる、けっして言葉にしてはいけない不信の予感。由香はそれを無意識に察知していたのか、事あるごとに、いま幸せであることを自分自身に言い聞かせます。これが痛々しくて、せつない。
由香のもとに、9年前の自分から電子メールが届きます。それを恋人の亮太には相談しようとせず、なぜか、おなじ職場に勤める元恋人の新城にのみ相談を持ちかけます。その元恋人を自宅に招き入れることも平然とおこなう。
不協和音が物語のそこらじゅうで鳴っているのです。物語のはじめから終わりまで、仲睦まじいはずのふたりから発せられ続ける、小説からは聴こえるはずのない、なにかが軋むような耳障りな感覚。
文字は聴くものではないはずなのに、由香と亮太が奏でる不協和音をしつこく描くことによって『KNIFE』の不穏な響きを、まさに読者に幻聴させる。
深読みのしすぎかもしれませんが、いびつなまま、気づかないふりをしたまま、互いのことを知っていると思い込んだまま結婚に至ろうとしていたふたりの軋轢こそが、本書における圧巻です。
ちなみに
すでに本書を読み終えた人ならば、終盤における新城の行動を知っていますよね。
いっぽうで、どうやら9.11は依然として繰り返されていることが推測できます。『ユカ』と『由香』は、ループを何度繰り返そうとも、自分の成長あるいは正常への帰還のことばかり考えています。いわば、亮太や新城とは正反対の人間性の持ち主です。
これをどう捉えるのか? 議論と考察の余地がありそうです。
不穏な作風
本書の著者――山田佳江さんの作品の多くは、かならず不穏さを孕んでいます。静謐というふうにも表現できるのですが、読みはじめると、きまって不穏という語が浮かび上がってきます。
その感覚は、くしくも本書の装幀(画・藤井太洋)のようなモノクロームな心象に通ずるものがあります。Twitter上の振る舞いを眺めるかぎり、山田さんご本人はあんなに天真爛漫な人物なのに。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- リーディング・ナイフ
- 著者:山田佳江 イラスト:たかだのぶゆき イラスト:藤井太洋
- 価格:250円
- 読了にかかる時間:約2時間(個人差があります)
- 「SF」度
- ★★★☆☆(3)
- 「複雑」度
- ★★★★☆(4)
- 「真相の予想外」度
- ★★★★☆(4)
- 「総合」
- ★★★★☆(4)
著者について
山田佳江さん(@yo4e )。『やまだ・よしえ』と読みます。福岡県北九州市。ネットの片隅で小説を書き続けている主婦。本人インビューを、以下のリンク先で読めます。
■【KDP最前線】美少女よ、その手で未来を取り戻せ!「未来少女ミウ」を執筆した”山田佳江”さんにインタビュー | きんどるどうでしょう
■『リーディング・ナイフ』山田佳江さん│セルフパブリッシングで注目の、あの作家に聞く | DOTPLACE
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