つんどく速報で2013年5月7日にレビューしたKDP本『お前たちの中に鬼がいる』(記事リンク)が、主婦の友社から書籍化発売され、全国の書店に並んでいます。
オッドアイの鬼が印象的な表紙の『単行本版 お前たちの中に鬼がいる』。Kindle版より3万字も加筆され、全体で400ページを超えるなど、前作を読了した方も今一度読みたくなる仕上がりになっています。
著者の梅原涼さんへ、つんどく速報のイマガワが取材しました。
総文字数6000字に上ったこのインタビューを、前後編に分けて掲載します。
(以下、敬称略)
KDPについて
執筆は約7年前、大学生時代に書き上げた25万字
イマガワ:KDP版『お前たちの中に鬼がいる』は、2012年12月中旬に販売開始しています。登録受付が始まったのが10月25日。比較的、すばやいスタートダッシュでした。原稿の執筆と推敲を終えたのは、いつ頃でしょうか?
梅原:大学生の頃の制作です。2005年から2006年の間に執筆しました。非現実的な作品だったため、書き上げた際は長い夜が明けたような気分でした。
------------------------------
イマガワ:プロ、アマチュアを問わず、いまだにKDPに登録するために必要なデータ作成ノウハウが行き渡っていない現状があります。
ぜひ、梅原さんが電子書籍データを作成するときに使用したツールを教えてください。
梅原:執筆はWordです。表紙はどこかのフリーウェアのソフト(色調変更のみに使用)と、Windows標準のペイントでデザインしました。
※KDP版『お前たちの中に鬼がいる』表紙
KDPはすばらしい。ただし、金儲けには向かない。
イマガワ:テキストデータや画像データを作成するだけでは、KDPに作品を登録することはできません。KDP版『お前たちの中に鬼がいる』の電子書籍データ作成に携わった人数を教えてください。
梅原: KDP初期はWordファイルとJPEGファイルで登録できましたが、今はできなくなってしまったのでしょうか。とくに手は借りていません。
------------------------------
イマガワ:アマゾンのKindleストア販売にこぎつけるまでに苦労はありましたか?
梅原:アップロードしたら翌日には販売されていましたが……。あまりに簡単なので、アマゾンの技術に感心したほどです。しかし規約の回りくどさにはまいった。
------------------------------
イマガワ:主婦の友社版『お前たちの中に鬼がいる』のテキスト量を教えてください
梅原:本編が25万字くらい。新規描きおろし短編『1993年(平成5年)』が3万字です。
------------------------------
イマガワ:AmazonのKDPに関して一言お願いします
梅原:すばらしい、の一言に尽きます。真剣に詩や小説を書いている人間は、みな参加するべきでしょう。ただし金儲けには向かない。株でもやっていたほうがましです。
著者について
「自分が一番やっているだろう」と思えるように
イマガワ:『梅原涼』というペンネームの由来について教えて下さい。
梅原:梅原という名字は、プロゲーマーの梅原大吾氏から借りました。
ウメハラといえば格闘ゲーム界の巨星ですが、自分が注目し始めたのは『CAPCOM VS.SNK』(1999~2000年)の全国大会からでした。
このときすでに、ウメハラは格闘ゲームの世界でその名をとどろかせていたのです。しかも、まだかなり若かった(20歳くらい)。いるんだな天才は、と子供心にも思いました。
自分はその後、高校生の頃から『STREET FIGHTER III 3rd STRIKE』で格闘ゲームにのめり込んでいきました。
ウメハラが出場した EVO2004において、全米No.1格闘ゲーマーのジャスティン戦でいわゆる『背水の逆転劇』を演じたのはご存知のとおりです。
※ケン:空手着キャラが梅原大吾。優勢だった春麗に逆転勝ちする
ウメハラの戦い方はまさしく正統派そのものでありながら、観客を大いに沸かせます。相手の全力をはき出させ、対等な立場に引きずり込んでからの地力勝負。
格闘ゲームというのは、相手の力を封じ込み、相手を降ろすような戦い方のほうが安定して勝ちやすいからです。ウメハラがそうした道を選ばないのは、ひとえに自身の実力への自負があるからでしょう。
ウメハラはこの自負の根拠を、はっきりと言い切ります。格闘ゲームを「誰よりもやってる」からだと。他のプレイヤーがどのくらいやってるのかは知らないが、それでも俺が一番やってるだろう、と。
自分も、少なくともこの言葉だけは、常に自信を持って言えるようにと心がけて日々執筆活動にいそしんでいます。誰がどれだけやっていようとも「自分が一番やっているだろう」と思えるように。
それは、電子書籍の販売数がどうだとか、書籍化がどうだとか、新人賞が獲れる獲れないだとか、人の評価さえも、まるで関係のないことです。
プロでもなく、賞にはまるでひっかからず、それどころか人に作品を見せることさえまれなくせに、よくもまあ……と自分でも思いますが、とにかくそういう考えでやってます。
※ちなみに梅原涼さんは『SUPER STREET FIGHTER IV AE 2012』では PP4000程度 だそうです
------------------------------
イマガワ:小説新人賞への応募歴はありますか?
梅原:あります。本作の売れ行きがまるで話にならなかったら、また応募を続けるつもりです。
Amazonから届いた「朗報」
イマガワ:はじめ『お前たちの中に鬼がいる』は、版元(出版社)や取次(問屋)を経由しない個人作家の作品として、電子書籍版がKindleストアのみで販売されていました。
そして、このたび2013年11月14日に発売。版元として名乗りをあげた主婦の友社による編集作業および取次流通を経て、ネット書店や全国の本屋さんにおいて販売されています。
『Gene Mapper』(早川書房)や『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』(東京創元社から今冬発売予定)などの前例はあるものの、珍しい事例です。
しかも、Kindleストア専売だった2012年末以降から現在に至るまで、梅原さんは、ウェブ上におけるブログやSNSを用いた活動をしていませんでした。そのような状況における、出版社とのファーストコンタクトの経緯が気になります
梅原:アマゾン経由で連絡を受けました。彼らの行動力には恐れ入った。
イマガワ:セルフブランディング云々という言説もありますが、なんらかの事情で執筆以外に時間を割けないという書き手にとっては歓迎すべき事例です。すぐれた書き手の発掘に意欲的な出版社がある、場合によってはAmazonが取り次いでくれる。個人作家にとっては電子書籍以外の販路を獲得できるチャンスであり、野心的な書き手にとっては朗報だと思います。
後編予告
後編では、梅原さんが執筆活動にあたりインスピレーションを受けた創作物や、出版にあたり改稿した際の苦労などを掲載します。
こちらからどうぞ。
お前たちの中に鬼がいる [Kindle版]
梅原 涼 (著)
出版: 主婦の友社 (2013/11/14)
Amazon電子書店「Kindleストア」の人気作を、大幅に改稿した増補完全版。付録として、短編『1993年(平成5年)』も収録。
高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。
『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象が次々と起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。ただ気がかりがあった。自分たちの中の誰かが『鬼』なのではないか…。
※Kindle版・単行本版ともに発売中。
・関連リンク
お前たちの中に鬼がいる 公式サイト/主婦の友社
挑戦! 脱出ゲームっぽいホラー小説「お前たちの中に鬼がいる」/つんどく速報
コメント