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AmazonのKindle個人出版から鮮烈デビューを果たした作家・梅原涼さん。
出版にあたり3万字を加筆し、さらにパワーアップした『お前たちの中に鬼がいる』を発売しました。
400P超えの大ボリュームになり、ページをめくるたび物語に引き込まれていきます。もちろん、電子書籍版も同時リリースしていますのでKindleで今一度楽しむことが可能に。

著者の梅原涼さんへ、つんどく速報のイマガワが取材しました。
総文字数6000字に上ったこのインタビューを、前後編に分けて掲載します。前編に引き続き、後編の掲載です。
(以下、敬称略)


本編のこと



執筆に影響があった創作物は



イマガワ:『お前たちの中に鬼がいる』は、どのような作家の影響があると感じますか?

梅原シエラオンラインの『ミステリーハウス』の画面を見て想像を膨らませたのが、最も作風に影響を与えているはずです。

Mystery_House_-_Apple_II_render_emulation_-_2
ミステリーハウス - Wikipediaから引用

黒い背景に白線だけで描写された画面は明らかに情報不足ですが、強烈に想像力を煽ります。あの感覚を小説で再現してみたかった。

それから『倉庫番』,『ロードランナー』,『マッピー』,『マリオブラザーズ』などのゲームも、設定の構想時に参考になりました。

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イマガワ『ミステリーハウス』(シエラオンライン)。1980年に発売された世界初のグラフィックアドベンチャーゲームですね。

あらすじは――古屋敷に8人の男女が招かれて、リビングに落ちていたノートに「屋敷のどこかに宝石が隠されている。見つけた人にあげる」と記されていた。欲にとらわれた何者かによって参加者たちがひとり、またひとりと殺されていく……。

ミステリーハウス - Wikipedia
ミステリーハウスの部屋

『ミステリーハウス』では、メッセージが記されたノートを見たあとに、主人公以外の7人が『パッと姿を消す』演出があったそうですね。ゲーム特有の省略表現であり、『鬼がいる』本編において、登場人物たちが物理法則を無視した空間移動を強いられることを彷彿とさせます。

梅原:ほかにも、主人公の立ち位置は『漂流教室』の給食のおじさん・関谷を想定していました。

お前たちの中に鬼がいる』は、いわゆるデスゲームに組み入れられていますが、当時このジャンルはまだ一般的でなく、自分としてはサバイバルものの一種として執筆していました。そのサバイバルものの傑作が、楳図かずおの『漂流教室』です。

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イマガワ:関谷のおじさん――あの強烈な生存本能の持ち主であるバーサーカーがモデルとは(笑)

おなじ狂戦士っぷりでいえば、『鬼がいる』本編に登場する某女性キャラクターも負けていませんね。漂流教室からインスピレーションを受けているというのは納得です。

梅原:あとは、作品のおおまかな構造が、ポーの『モルグ街の殺人』とまるで同じです。実のところは。


『モルグ街の殺人』について



イマガワ:『お前たちの中に鬼がいる』の読者レビューに共通しているのは「はじめは暗い雰囲気や世界観に戸惑うが、中盤からは夢中になって一気に読み進めた」というものです。

わたしも同様で、序盤の不条理ホラー展開で油断していたら、中盤における意外な人物の意外な行動に驚かされました。

お前たちの中に鬼がいる (Kindle) 感想 梅原涼 - 読書メーター
※KDP版『鬼がいる』読者レビュー

梅原:ポーの『モルグ街の殺人』がなぜ当時の人々に衝撃を与えたのか、という点をいつも意識して書いています。モルグ街に関していえば、当時は推理小説というものがなかったから意外性があったわけです。

同じ水準のことを今やろうとするなら、ジャンルくらい軽くひとまたぎしなければ不可能でしょう。そこで、がんばってみたわけです。


極限の脱出ゲームの秘密



イマガワ:今回、主婦の友社による書籍化にあたって『1993(平成5年)』という小説が新規書き下ろしで収録されています。

この短編は『お前たちの中に鬼がいる』の登場人物たちを翻弄する 謎の地下室で始まる極限の脱出ゲームシステム の秘密に迫ったものです。

梅原:付録の短編は、本編執筆時に設定上の想定としてのみあったものを、突き詰めながら書いたものです。

本編では描写や設定の「省略」が一つのテーマだったので、システム的な部分には触れることができませんでした。

また、生死がかかった状況下でやたらと場の謎を解きたがる人物というのが、自分にはしっくりこなかったというのもあって、本編の登場人物は不条理な現象については深く検討しようとはしません。それより本人たちが助かることを優先しています。

付録の短編では、この「謎を解きたがる人物」を主人公として配置しました。続編や補完エピソードといったものは、構想的にはないことはないのですが、予定は今のところありません。本書自体の行方がまだわからないからです。

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イマガワ:今回、主婦の友社による書籍化にあたって『設定も含め大幅に改稿した』ということですが、作業時におけるエピソードがあれば、ぜひ教えてください

梅原:書いてから八年ほど経っている作品なので、客観的な立場から改稿できるだろうと初めは安易に考えていました。

が、そう甘くはなかった。他人の助言で文章を研磨していくという作業は、恐ろしくつらいものでした。直しながら、身を切られるようなものだな、と感じていました。

さんざんたたき直されただけあって、最終的には全体が硬度の高い仕上がりになりました。たたかれて良くなるということは、文章自体が子供だったということかもしれませんが。

それからうれしかったのが、下田ひかりさんの表紙がついたことです。

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自分としてはKDP版の表紙も気に入っていたので、実はどんな表紙になるか不安でした。それだけに、挿画を見せられた時は感動しました。

かわいらしい絵ではあるのですが、そのかわいらしさは息が止まるようなかわいらしさです。

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イマガワ:次回作のテーマを教えてください

梅原:構想中のものはすべてサスペンスです。過去に書いた未発表の作品もたいていがサスペンスです。


イマガワ:ぜひとも、2重にも3重にも張り巡らされた展開でわたしたち読者を翻弄するような意欲作が読みたいです。楽しみにしています。

このたびはお忙しいなか、インタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。

梅原:ありがとうございました。


編集後記


先の回答においても登場した『モルグ街の殺人』を、良い機会なので再読しました。
『鬼がいる』にかぎらず、ミステリー小説のヤマ場における快感といえば、すぐれた観察力と緻密な論理的思考力をそなえた人物が、ルービックキューブの早解きのごとき勢いで複雑な謎を解明する――まさに、あの瞬間です。

梅原さんが参照したという『モルグ街』は、当初むごたらしい恐怖小説の趣だったものが、中盤からは一転して、後世においてミステリと呼ばれる目新しい態様の物語が立ち現れます。それが、当時の読者たちをどよめかせたわけです。
一方の『鬼がいる』では、不条理系脱出ゲームあるいは鬼ごっこ系デスゲームの趣だったものが、中盤からは一転して、解決可能なミステリの様相を見せはじめ、さらには、登場人物たちの存在そのものが『鬼システム』を成り立たせているという何重もの仕掛けが見えてくる――。

先だって紹介した『KDP版 鬼がいる』の読者たちの反応をながめれば、『モルグ街』にまつわる驚嘆の再現を試みた梅原さんの意図は成功した、と言えるかもしれません。


お前たちの中に鬼がいるお前たちの中に鬼がいる [Kindle版]
梅原 涼 (著)
出版: 主婦の友社 (2013/11/14)

Amazon電子書店「Kindleストア」の人気作を、大幅に改稿した増補完全版。付録として、短編『1993年(平成5年)』も収録。

高校教師、須永彰は薄暗い地下室で目覚めた。記憶も曖昧で何もわからない。そこで彼は、奇妙なメッセージを見つける。
『お前たちの中に鬼がいる……』。地下には、他に五つの部屋があり、中には、鎖で繋がれた五人の女性がいた。誰もこの状況を説明できない。が、みな何かを隠しているようで、誰一人信用できない。さらにここでは、常識では考えられない不可解な現象が次々と起こる。須永はこの空間からの脱出を決意する。ただ気がかりがあった。自分たちの中の誰かが『鬼』なのではないか…。

※Kindle版・単行本版ともに発売中。

・関連リンク
お前たちの中に鬼がいる 公式サイト/主婦の友社
挑戦! 脱出ゲームっぽいホラー小説「お前たちの中に鬼がいる」/つんどく速報

buhohou
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