こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・16編の短編小説を収録した作品集
・老男1人・老女2人・猫1匹たちが共同生活を送るシェアハウスの顛末など
・もっともっと読みたい! と思わせる実力の持ち主

舟崎 泉美 短編集「夜桜」舟崎 泉美 短編集「夜桜」 [Kindle版]
舟崎 泉美 (著), 宇田 梨紗 (イラスト)
出版: 豊作パブリッシング; 001版 (2013/3/17)

舟崎泉美、待望の短編集。

花見の夜の若者の心の移り変わりを描きだす。表題作「夜桜」の他、本短編集のために書き下ろした「私の娘」「通り過ぎた雨」も収録。

・夜桜
・高齢者限定シェアハウス
・脳内共存
・ストレンジラブ
・男なんていらないし
・私の娘
・ボク僕
・台風の夜に……
・華ちゃんの憂鬱 ―― など、16作品を収録。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

2つの特徴


本書『短編集 夜桜』は、単品販売している13編と書きおろし3編をまとめた短編集です。

特徴、ひとつめ。収録作の主人公たちは、しぶとく生きる社会的弱者であること。(一部作品は除く)

いじめられっ子、母子家庭、こども、無宿女性、寝取られ妻、多重債務者、ひきこもり、半死半生、虐待被害者。だけど、それなりに皆たくましい。心が折れそうで、折れない。自棄になりそうな寸前で思いとどまります。

特徴、ふたつめ。老人を主役に据えた話が優れていること。老い、あるいは諦念によって導かれる、ささやかな喜びの描き方が秀逸です。

いずれの登場人物たちも、どん底だった人生がほんの少しだけ上向きそうな予感を秘めながら、それぞれの夜明けを迎えます。

高齢者限定シェアハウス


老男2人、老女1人。たった3名の老人たちで構成されているシェアハウスの物語です。

本書『短編集 夜桜』に収録されている16編のうち、とくに 老境の諦念 を扱っている物語がすぐれています。

語り手は、シェアハウスで飼われている 猫(ねこ) です。メンバーである1人の男性が亡くなったあと、その猫ちゃんに憑依します。シェアハウス住人である老いた男女ふたりの恋の行方を見守るために。

しかし、そこへ新しいメンバーが入居してきます。器量の良い老女でした。男ひとりに女ふたり。波乱の予感。猫はヤキモキします。

心残りがある死者の魂が、動物に憑依する。珍しくないモチーフですが、そんなことは気にならない面白さをそなえた小説です。気がつけば、じっと読書端末に表示されている文字を追いかけていました。自分でもびっくりするほど熱心に読んでいたのです。

オチが見えても、なぜか目を離せない


収録作『ストレンジラブ』……森の奥で白髪の男と幼い女の子がひっそりと暮らしている。住居の離れには研究所がある。けっして近づいてはならないと、少女は教えられている――。

物語冒頭の情報だけで、少女の正体を確信できました。ありふれたモチーフです。

しかしながら、白けることはありませんでした。作者の語り口が心地よく、なにも気にならず最後まで読み進めました。本書に収録されている作品の多くが、読み飛ばしをさせないある種の磁力を備えています。

舟崎泉美――物足りない、ではなく、まだまだ読み足りないと感じさせる優れた書き手です。次回作を楽しみにしています。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「社会派」度
★★★★☆(4)
「老境小説」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)



著者について


舟崎泉美さん(@creambun396)。『ふなさき・いずみ』と読みます。1984年生まれ、富山県出身。小説家、コラムニスト、ライター。

2013年12月現在、明治牛乳企業冊子のびやか通信にて 小説「夢見草の咲くころに」連載中。フリーペーパー「ほぼ月刊ロジザード」コラム掲載中です。


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