こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・『東洲斎写楽=斎藤十郎兵衛』説にもとづいて、実像を再現している
・江戸にまつわる土地や風俗の薀蓄がたくさん
・KDPでこれほど本格的な写楽小説が読めるとは!

写楽事件帖もどった男写楽事件帖もどった男 [Kindle版]
本間 信一 (著)
出版: 本間信一; 1版 (2012/12/8)

浮世絵師東洲斎写楽は寛政の改革によって筆を折った。

失意の彼を助けるため幼馴染の友、八丁堀同心が殺人事件の検死を彼に依頼する。卓越した観察眼を持つ写楽は難なく事件を解いたように見えたが、町奉行所では真犯人が幽霊の仕業であると公表した。

ついに事件の真相を求めて写楽は京へ向かった。その彼を追うように、奈良時代から続くといわれる暗殺集団の影が付きまとう。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

探偵・東洲斎写楽


本書『写楽事件帖もどった男』は、謎の浮世絵師・東洲斎写楽を探偵役に配した、ミステリ要素ありの時代小説です。

2013年現在において最有力説とされている文献研究の成果および意欲的な時代考証によって、写楽が活動していた時代の情景が、活き活きとした筆致で再現されています。

写楽の正体探し小説ではない


東洲斎写楽。テレビや書籍などで『謎に包まれている』と喧伝されていますが、あれらは商業的なアジテーションにすぎません。

俗称 斎藤十郎兵衛。江戸八丁堀に住む。阿波侯の能役者。

これが、浮世絵師・東洲斎写楽の正体です。実在する資料『浮世絵類考』に記述があり、江戸や明治に生きていた人々にとっては当たり前の情報でした。

写楽の素性にかんする実証研究は、じつをいうと1980年代ごろに決着がついており、それから20年以上を経て、有力な学説をさらに補強するような資料も見つかっています。

近世文学研究の第一人者である中野三敏『写楽―江戸人としての実像』によれば、写楽の正体が云々と騒がれだしたのは、昭和初期以降のことだそうです。

2013年現在、地道な文献研究により、斎藤十郎兵衛説がもっとも有力とされています。

あらすじ


寛政7年2月の終わりごろ。江戸の深川において、 顔の潰された遺体が発見されます。

主人公である本間信二郎は、町奉行所の同心です。幼なじみの斎藤十郎兵衛(写楽)の超人的な洞察力を借りて、捜査が大きく進展します。写楽は、ホームズというよりも、金田一耕助的な役割をつとめています。

その後の調べによって、遺体は、大店(越後屋)の大番頭であることが判明します。信二郎や写楽たちがさらに捜査を進めようとしたところ、奉行所上層部からストップがかかり、なんと『幽霊のしわざ』という信じがたい理由で決着してしまいます。

あきらかに不審であり、諦めきれない信二郎はひそかに捜査を進めます。興味をいだいた写楽も、独自に調査を進めていくと――意外な事情が明らかになっていくのです。

設定と時代考証の妥当性は?


ちなみに、本書の時系列を説明すると、寛政7年2月は写楽が姿を消す直前です。史実によれば、写楽は10ヶ月間しか活動していません。

写楽こと徳島藩士・斎藤十郎兵衛が八丁堀に住んでいたことは、当時の地図に記録されています。史実です。

八丁堀といえば、奉行所につとめる同心や与力たちの居住区ですから、殺人事件捜査の手助けをする……創作のためのこじつけとしては悪くない発想です。

本書のクライマックスでは "寛政7年以降に写楽が姿を消した謎" に関する、著者独自の解釈が披露されています。殺人事件の真相とあわせて、けっこう驚かされるオチです。

王道の写楽小説


著書は、江戸時代にまつわる豊富な見識を駆使して、中野説にもとづく写楽の実像を再現することに成功しています。

それを踏まえたうえで『中村主水』なる同心を準レギュラー的な扱いで登場させたり、喜多川歌麿や十返舎一九などの同時代人の名前を登場させる遊び心も忘れていません。

本書は、一見すると王道な時代小説の趣ですが、上記のような趣向のほかに『謎の殺人集団』という要素を突っ込んだりと、娯楽性をも考慮に入れたテクニカルな物語構造になっています。

有名どころを挙げれば、高橋克彦『写楽殺人事件』や島田荘司『写楽 閉じた国の幻』などは、大胆な仮説にもとづく写楽小説です。

本書は、正統な文献研究の成果を下敷きにしてはいるものの、上記2作品に名を連ねてもおかしくない奇想をはらんでいます。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「エンタメ」度
★★★★★(5)
「謎解き」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★★(5)



著者について


本間信一さん。『ほんま・しんいち』と読みます。主役の本間信二郎と似ていますね。有栖川有栖みたいな趣向でしょうか。


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