こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
・書けなくなった作家がすごした10年間のモラトリアム
・徹底した楽天主義にもとづく観点から、出版人たちを描いている
・あなたは "田端文士村" 知っているか?
つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・書けなくなった作家がすごした10年間のモラトリアム
・徹底した楽天主義にもとづく観点から、出版人たちを描いている
・あなたは "田端文士村" 知っているか?
僕は小説家 [Kindle版]
新庭 一 (著)
元ベストセラー作家の小さな物語。
作家、物書き、編集者、出版業界、読書家、活字中毒――すべての本好きへ捧げる純文学。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
あらすじ
深刻なスランプのせいで思うように書けなくなってしまった元ミリオンセラー作家が、ふたたび筆を執るまでの前日譚です。
亡き恩師との思い出。創作に目覚めた原体験。かつて苦楽をともにした編集者との絆。寓意的な悪夢などで構成されており、平凡な天才作家が過ごした、長い長いモラトリアム期間の緩やかな苦しみが表現されています。
平凡な天才作家!?
おかしな日本語ですが、主人公である北沢蓮をあらわす言い回しとしては悪くないと思います。
デビュー作を含めて7冊書いており、5冊がミリオンセラーになっている。すくなく見積もっても500万部以上。北沢蓮をことキタレンは、一生遊んで暮らせる印税を受け取っています。
しかしながら、よくある宝くじ当選者のような破滅へと突きすすむ事態とは無縁であり、40代の無欲な男は、とくに贅沢もせずにひっそりと暮らしています。『ホームレス作家
』とは異なる展開です。楽しませてくれます。
わたしは、スランプに陥った村上春樹を想像しながら読みました。もしも彼が『ノルウェイの森』のあと10年間以上なにも書けなくなっていたら、キタレンのような人生を送っていたかもしれません。
恩師との思い出
ブンさん、と呼んで慕っている老人。日本を代表とする文豪と評され、世界的にも巨匠といわれる大作家です。キタレンは、高校生のときに読んだ彼の作品に感銘を受けて小説家を志しました。
この老作家は、いわば日本の戦後文学者たちの良いところだけを寄せ集めたような人物です。
本編によれば、ブンさんは学歴がなく、徴兵された経験があり、40過ぎで作家デビューとあります。この条件には松本清張が該当しますが、ブンさんは文壇と一定の距離をとっており、山本周五郎を彷彿とさせます。
世界的巨匠という要素は、大江健三郎。キタレンのデビュー作である『エンターテイメントのような純文学』に理解を示していたらしく、若き日の村上春樹に理解を示した丸谷才一がベースにあるのかも、などと勝手に想像しながら読みました。
ほかにも、キタレンが書けなくなっても見捨てない編集者が登場したりと、徹底したオプティミズム(楽天主義)にもとづく視線によって、とある出版業界の情景を描いています。
田端文士村という現象
スランプに陥っていた10年目に、主人公のキタレンは、ふと周囲に創作を志すものが集まっていることに気がつきます。
近所の女子中学生、会社員生活に疲れて創作を志しはじめた高校時代の同級生、新しい出版社を設立する決意をした編集者。
かつてのトキワ荘や田端文士村のごとく、才能も有機的につながっているのかもしれない――。10年以上のスランプ期間を経て、キタレンは気づきを得ます。
手塚治虫をはじめ、藤子不二雄や石ノ森章太郎や赤塚不二夫が入居していたトキワ荘のエピソードは有名ですが、小説家にも田端文士村というコミュニティがありました。
東京帝大在学中の芥川龍之介が、東京都北区の田端に転居してきたのは1914年(大正3年)。その翌年には『羅生門』を発表します。そんな芥川に引き寄せられるように、のちに大成する芸術家の卵たちが、田端に移り住んできました。
菊池寛、萩原朔太郎、竹久夢二、室生犀星、堀辰雄などです。誰か突き抜けた人が登場すると、引き上げられるように俊英たちが大いに刺激を受けて、そのコミュニティはますます盛んになる。
そういえば――。セルフパブリッシングの担い手たちが、Twitterやブログコメントを介して交流する。最近では珍しくない光景になりつつあります。
SNSやブログを介した個人間のやりとりはもちろんのこと、『きんどるどうでしょう』や『きんぷれ!』、さいきん盛り上がりを感じさせる『日本独立作家同盟』などから、KDP以前では想像できなかったようなムーブメントが起こるもしれません。来年が楽しみです。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- 僕は小説家
- 著者:新庭 一
- 価格:300円
- 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)
- 「ホームアリ作家」度
- ★★★★☆(4)
- 「オッサンも生まれ変われる」度
- ★★★★☆(4)
- 「満足」度
- ★★★★☆(4)
- 「総合」
- ★★★★☆(4)
著者について
新庭一さん。『しんば・はじめ』と読みます。1967年生まれ、東京の下町出身。
ググったところ、むかし『小説家になろう』でも投稿していた模様。それは『地球の乙女』という作品で、Kindleストアで販売中。この著者が書いたものなら、きっと面白いと思う。信頼感がある。
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