こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
・元ストーカーの女子大生が、魔性の13才男子にふりまわされる
・サイコなのにセンチメンタルを感じさせるラブロマンス
・太宰治『女生徒』の文体を借りた、サスペンス小説
つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・元ストーカーの女子大生が、魔性の13才男子にふりまわされる
・サイコなのにセンチメンタルを感じさせるラブロマンス
・太宰治『女生徒』の文体を借りた、サスペンス小説
愛を下さい [Kindle版]
香取俊介 (著)
出版: 香取俊介; 1版 (2013/6/23)
世界と違和感を覚えていた女子医大生が、下宿先の中学生の家庭教師をするうち、お互いひかれあいます。
2人とも何かが過剰に備わっている一方、なにかが過剰に足りないのです。
太宰治の作品に「女生徒」という短編があります。女生徒の微妙な心理を独特の語り口調の文体で描いたものです。その文体からヒントをえて書いた、女子大生と男子中学生との奇妙な愛の物語です。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
あらすじ
神保真琴(マコ)は、都内の医学部に通う女子大生。医師である両親のもとに生まれましたが、幼いころに父を亡くします。
マコの母は、亡き夫のかわりに病院経営を引き継ぎました。ひとり娘に後継者としての期待を寄せますが、親子の折り合いはあまり良くありません。
鎌倉にある実家から通学していたのですが、母をうっとおしく思い、マコはひとり暮らしをはじめます。下宿先の大家さんと親しく付き合っていくうちに、ひとり息子である中学生の家庭教師を依頼されます。
雅也、13才。魅力的な容姿の持ち主ですが、過去に自殺未遂を繰り返している厄介な少年です。この出会いによって、女子大生マコの破滅がはじまります。
太宰治『女生徒』をリスペクト
著者いわく "文体からヒントをえて書いた、女子大生と男子中学生との奇妙な愛の物語" だそうです。
本書『愛を下さい』は21世紀の物語ですが、たしかに、マコの語りは『女生徒』の特徴的で古めかしい文体を彷彿とさせて、パロディは成功しています。
作中において "いまどき吉屋信子を愛読している" というフォローがなされているので、想定される「こんな喋り方の女子大生はいない」という批判をかわして、現代小説の体を保っています。絶妙なバランスです。
センチメンタル・サイコ
太宰治『女生徒』の主人公は、十代前半の思春期であるがゆえに "朝は、意地悪" とか "眼鏡は、お化け" などという自己陶酔の言がサマになり、社会にとって何ら害はありませんでした。
しかし、本書の主人公であるマコの場合は、事情が異なります。
学生とはいえ23才のオトナであるにもかかわらず、いまだに自分のことを世間知らずであると規定しており、なにひとつ主体的に決められないまま、みずから招いた事態を悪化させていきます。
時代を隔てたふたりの女生徒の共通点は、悲しいことがあると亡き父への憧憬を募らせて現実逃避を図ろうとするところです。
マコの場合は、ストーカー事件を起こしたり、13才の雅也をハルシオンで昏睡させて悪戯に及んだりします。医学部に通っているので、ポケットにメスを忍ばせていることもあります。
根はひどくセンチメントにできているものの、実際の行動はサイコなのです。
世間知らずの箱入り娘どころか、もはや危険分子ですね。早くに父親を亡くし、抑圧的な母親から過大な期待を押し付けられつづけた "女生徒" が、10才以上も年の離れた少年に恋をした結果――どのような末路をたどるのか?
感想
『女生徒』をリスペクトした小説――というだけで大歓迎ですし、楽しめました。
最後まで明らかにならない謎があって、推理困難な部分も見受けられます。読者それぞれに解釈を委ねているのかもしれません。まさに、真相は 藪の中 ですね。
マコが多重人格だった、というのは当たり前すぎるので――。わたしは『真琴という名前の男性だった』という叙述トリックの方向で、本編を再構築して遊んでいます。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- 愛を下さい
- 著者:香取俊介
- 価格:343円
- 読了にかかる時間:約2時間(個人差があります)
- 「サスペンス」度
- ★★★★☆(4)
- 「太宰治パロディ」度
- ★★★★☆(4)
- 「満足」度
- ★★★★☆(4)
- 「総合」
- ★★★★☆(4)
著者について
香取俊介さん(@katorisandesu)。『かとり・しゅんすけ』と読みます。1942年、東京生まれ。NHKを経て、フリーの脚本家・作家・ノンフィクション作家に。
2013年12月現在、71歳。つんどく速報にてレビューしたセルフパブリッシング作者のなかでは最高齢です。
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