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殺人は、甘く切ない薔薇の香り
如月恭介(@KyouskeKisaragi)
出版: 夜明けプランニング; 2版
2014-02-04


それぞれの思いを胸に抱き、二人は人を殺めた。
男はその肉体で、女は銀色の短剣で、忌まわしい出来事をこの世から消し去った――

それが正義だなどとは、もちろん思ってはいない。彼らは、ただ許せなかったのだ。弱きものを弄ぶ卑劣なクズどもが。

助けたかったのだ。抗うすべのない美しき魂たちを。

そして……屍の転がる血の池から、あの香りが漂ってくる。甘く切ない、薔薇の香りが――

元格闘家でありキックボクサーでもあった著者の、実経験にもとづくかつてない迫真の格闘シーン(当社比)も見逃せない。(著者談)

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

非道の代償は、血と肉片で


ふと懐かしくなったので、大藪春彦のデビュー作『野獣死すべし』を読み直しました。暴力の度合いならば、本書『殺人は、甘く切ない薔薇の香り』も、決して負けていません。

睾丸を握りつぶし、関節をねじきり、鼻を削いで、腕や足を骨ごと切断するなどの陰惨な暴力描写は、大藪春彦の諸作品を上回っています。

漫画『殺し屋1』のノリに近いかもしれません。痛いのは見たくないけれど、おそる恐るページをめくる手を止められない。

もちろん、読者の嗜好にもよりますが……。悪人どもが肉体的苦痛を受ける場面のオンパレードであっても、つい続きが気になってしまう━━残虐なアクション描写満載の長編小説です。

殺人キックボクサー


本書の主人公たちは、『野獣~』における伊達公彦と同様、手際の良い暴力によって、相手を死に至らしめます。

あちらは拳銃や鈍器によって。一方の『殺薔薇』は、キックボクシングと中国拳法のミックス━━すなわち人間凶器です。

野獣~』や『蘇える金狼』の主人公は、私欲(おもにカネ)のために悪人たちを殺します。

殺薔薇』の主人公たちも、ある欲望を満たすため、極悪人に穏やかならざる死を与えます。ただし、厳密に言えば、私欲であって私欲ではない。結果的に、超法規的な社会正義を実現しうる殺人です。

非業を背負った暗殺者たち


本書『殺薔薇』には、ふたりの暗殺者が登場します。元サラリーマンの男性と、口数のすくない謎めいた少女。

速見真一。殺人犯。悪漢たちに辱められた挙句に自殺してしまった大切な女性の復讐を果たすため、3人を素手だけで惨殺した凶悪犯です。謎の人物・牛島によるスカウトを承諾したのち、裁判や懲役を免れて、シャバへ復帰します。

湊川真澄実。殺人犯。12才のとき、義父をナイフで惨殺しました。原因は、4年間にわたる虐待です。精神病棟に収容されていた触法少女のもとにあらわれたのが、牛島でした。彼は、真澄実のなかに暗い情熱と確かな正気を見出します。

KDP界のダンディ、ついに開眼!


本書『殺薔薇』において、愛や恋や正義などの甘っちょろい展開は期待しないでください。

真一と真澄実。ふたりの暗殺者は、欲望のままに悪人どもへ制裁を加えます。不義への鉄槌における過程でもたらされる血だまりや血飛沫に━━あろうことか紅薔薇の美しさを見出すのです。

はたして、ふたりをスカウトした牛島とは何者なのか? その背後には、警察や司法を意のままに操ることのできる底知れない権力の存在がチラつきます。

悪人相手といえども、殺人という最悪の違法行為を繰りかえしてきた真一と真澄実は━━。いよいよ追われる境涯に陥りながらも、おのれの欲望と信念にもとづいて命を使い切ることを互いに誓い合います。

如月さんの小説は何度も取り上げていますが、今までよりも突き抜けたものに仕上がっています。まさに新境地を開拓した一作です。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「凄惨な暴力描写」度
★★★★★(5)
「ハードボイル」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)



著者について


如月恭介さん(@KyouskeKisaragi)。『きさらぎ・きょうすけ』と読みます。山口県出身、慶應義塾大学理工学部卒。受賞経験あり。新田小学校『夏休み読書感想画コンクール』銅賞です。(参考リンク


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