こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・著者は、炎上ブロガーの矢那やな夫さん
・ジャスコがもたらす絶望とは
・文學界新人賞予選通過作

ジャスコの町に生まれて
矢那やな夫
(2013-12-03)


ひとりの少女が東京の街を歩きながら考える。

自分が行ったことのない土地の、自分とは関係のない一族の、5つの世代にわたる色々な人生について。

21歳の浪人生である私の仕事は、彼らについて調べることなんだ。

文學界新人賞予選通過作。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

著者は炎上ブロガー


矢那やな夫さん。以前『就活自殺、内定のため命まで投げ出す大学生』という、虚構新聞めいたブログ記事を発表して、賛否両論を巻き起こし、Twitter経由では7000近くのRTやツイートを記録しました。

それ自体には興味はなかったのですが、あるとき、Kindleストアにおいて『矢那やな夫』という表記を発見。なんと自作小説を販売していました。さっそく、興味半分で購入。

タイトルは『妹が女子高生の時に書いた小説を勝手にキンドルで出版してみた』という冗談めかしたもの。

どうせグダグダのおふざけ小説だと思って読み始めると━━真摯な内容でした。しかも、巧い。清潔で、透明感があって、リリカルな文章。しかも観念的になりすぎず、続きが読みたくなるストーリー性を備えています。

続けて手にとったのが、本書『ジャスコの町に生まれて』です。期待にたがわず、読みごたえのある短編でした。

あらすじ


ある男が、母子を惨殺します。理由は『夕日があまりにも美しいので、今までの人生でもっとも憎んだ人間を殺そうと思った』というもの。

殺意を向けた相手は━━元イジメっ子。襲撃したときには不在だったので、目撃者のふたりを殺しました。

本書の語り手は、21歳の女性浪人生です。彼女は、生まれも育ちも東京。いっぽう、母子を殺した男は、地方の『ジャスコしかない町』に生まれ育ちました。

ふたりは、インターネット上の恋人。メールやSNSやSkypeのみ。そういう関係です。

事件を知った21歳の女性浪人生は、民俗学的興味に駆られて、ネット上の彼氏━━母子殺害犯の家系を調べ始めます。母子殺しから5代もさかのぼって。

くしくも、当時の当主であった『清七』が私財を費やし、山を削り、ようやく手に入れた赤い夕日の眺めが━━その末裔である『清長』に凶行を決意させたことを知ります。

本編では、女性浪人生の東京逍遥の様子および民俗学的記述が渾然と記されています。

小説新人賞の落選作


ちなみに。本書『ジャスコの町に生まれて』は、文學界新人賞に応募したのち予選通過した作品です。受賞には至りませんでした。

しかし。AmazonのKindleストアにおいて、たとえば歴代受賞作である『太陽の季節』(石原慎太郎・第1回)や『オブ・ザ・ベースボール』(円城塔・104回)と同列の扱いで販売されています。

日本版KDP開始から、1年。上記のような光景は、もはや珍しいものではありません。

落選したはずなのに、『出版化』という権利を行使している。たとえ文學界新人賞に選ばれても、単行本にしてもらえない受賞者のほうが多いというのに。

『文學界新人賞』の応募要項は、400字詰原稿用紙100枚程度の短編。受賞しても、これだけでは書店に並べるための本を作ることはできません。

しかも、Wikipediaにおける『文學界新人賞』歴代受賞者の名前を眺めてみると━━せいぜい、10人に1人か2人です。出版業界においてモノになっている書き手は。

そうか。受賞しても、出版社が面倒見てくれるわけじゃないのか。なーんだ。新人賞なんて意味ないね。KDPで発表したほうが、読んでもらえるぶんマシかも━━というわけでもありません。

純文学系の新人賞には、ひとつだけ特権があります。入選したのち本誌に掲載されれば、芥川賞における候補作選考の対象として扱われます。これは大きな魅力です。

まっさきに思い浮かぶのが、モブ・ノリオ『介護入門』です。2004年における文学界新人賞作品であり、このデビュー作によって第131回芥川賞に輝きました。

なんと、舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』や、後の芥川賞作家である絲山秋子を抑えての快挙です。

新人賞そのまま芥川賞の例は、いくつかあります。古くは、石原慎太郎『太陽の季節』(文學界新人賞)、村上龍『限りなく透明に近いブルー』(群像新人文学賞)などが有名です。

例外中の例外は、平野啓一郎の『日蝕』です。この作品は、当時大学生だった著者が原稿を編集部に持ち込んで、新人賞を経ることなく純文学誌に一挙掲載されたのち、候補作に選ばれて芥川賞に輝いています。

いつの日か


じつは、地方同人誌に掲載された小説も、芥川賞候補作の選考対象に含まれます。同人誌→純文学誌に転載→あらためて原稿依頼→掲載→芥川賞というパターンもあります。(玄月、西村賢太など)

ですから、セルフパブリッシングやウェブ小説の世界における、たとえば『月刊群雛
』や『CRUNCH MAGAZINE』に掲載された新作小説が、芥川賞候補作になる日が、いつか訪れるかもしれません。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

「小説の技巧」度
★★★★★(5)
「大化けするかも」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)



著者について


矢那やな夫さん(@YANA1945)。『やな・やなお』と読みます。就活ニュース:デジタル版を運営している。

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