こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・実話に基づいた物語
・デリヘル嬢が目撃したKDP界隈の実態
・作家志望者の使命や救済とは?

泡姫ありえない泡姫ありえない [Kindle版]
毒牙夜蝶 (著)
出版: 漆黒蝶文藝社; 3版 (2014/3/9)

リストラになった。デリヘルを。二十五歳にしてリストラの浮き目にあったデリ嬢、アリエルは自分の存在意義に苦悩する。

引退までの猶予期間、作家志望の会社員である森と身体を重ねるにつれて、彼女は小学生時代に抱いた罪の意識から逃れられていない事に気づきだす。少女は見えない鎖となり、何も知らない二人を引き合わせていた……。

油断してると泣かされる、KDP発のエロいい話、ここに降臨!

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

あたしの客はAmazonレビュワー


主人公の名前は、アリエル。という源氏名のデリヘル嬢。25歳の日本人女性。

いつも指名してくれる常連客の森さんは、書評が趣味です。レビュー対象は、アマチュア作家が販売している電子書籍。ネット上では『地雷ZERO運動』という匿名でレビュー活動をしています。

とにかく酷評します。中傷をまじえてボロクソにけなした感想文をアマチュア作家たちに突きつけることをライフワークにしている人物。それが『地雷ZERO運動』こと、森さんです。

森さんは自分が書いた文章を見直しもせずに送信、そして「ふう」とため息をついた。

「終わったの?」
「うん、我ながらいいこと書いた」
「かなり厳しいことを書いてた気がするけど?」
「ああ、時には諦めさせてあげることも優しさだと思うんだ。明らかに才能の無い奴が終りのない努力を続けているのを傍観するのは残酷だって思わないか?」

(中略)

「俺は将来性のないわなびのキャリアに終止符を打ってあげてるんだ。こんな汚れ仕事、俺の他にやろうなんて奴がいるのかな? いや、いないだろうな」
「わなび?」
「そう、わなび。夢を追う半可者って意味だ。わなびわなび」
 森さんはゆるーく笑った。

泡姫ありえない』から引用 以下、同じ。

キモチワルイ野郎ですが、じつは、森さんもアマチュア作家です。ただし、自作を発表するときには『地雷ZERO運動』以外のペンネームを名乗っていました。

つまり。森さんは、アマチュア作家のくせに、他のアマチュア作家のことを匿名で中傷しているわけです。卑怯者。こういう奴には天罰が下ります。

あるとき、森さんの中傷レビュー活動がバレてしまったのです。『地雷ZERO運動』と『アマチュア作家・森さん』が結びついてしまえば、悪評が立って、電子書籍の売上に影響が及びます。本が売れなくなる。

本書内の世界には、アマチュア電子書籍の販促には欠かせない『村八分カルテット』という4人のネット有名人が登場します。

森さんこと『地雷ZERO運動』は、あろうことか『村八分カルテット』の1人であるアマチュア作家の作品を酷評してしまったのです。

村八分カルテットの通称の由来は、この有力者にたてつくと、露骨に業界で干されてしまうという点に由来する。まだ始まって間もない電子書籍の世界で、このメンバーから協力を得られないということは、無名作家のキャリアをひた走ることを意味する。

(中略)

森さんをはじめとしたインディーズ作家がサポートをお願いするのが、さっきの村八分カルテットだ。彼らは独自のサイトでインディーズ作家をサポートしていて、一つでも多くの作品が書籍化するように頑張っているらしい。

虎の尾を踏んでしまった森さんは、ひどく怯えます。意気がっていたわりには、とんだ退け腰男だったわけです。

 森さんは私以上にテンパってた。村八分カルテットとの確執がぜんぜん元通りになっていなかったからだ。もう素直に文学賞狙えばいいじゃんって思うけど、言ったら怒るから私は黙ってる。

 森さんは「ああ、どうしようどうしよう」言いながら部屋の中を無意味に往復していた。いや、謝れよ。

で、この事件のあとに、森さんとアリエルの意外な共通点が判明します。ふたりは、運命に引き寄せられていたのです。

作家・毒牙夜蝶の正体


実をいうと、本書『泡姫ありえない』は実話に基づいた物語です。こう見えてハイコンテクストな作品であり、背景が複雑なのですが、ひとつずつ順を追って説明していけば、概要をつかんでいただけると思います。おつきあいください。

本書は、AmazonのKindleストアで販売しています。著者は、毒牙夜蝶さん。実在しない人物です。以下、参考リンク。

・毒牙姐さんの出自 - ペンと拳で闘う男の世迷言


毒牙夜蝶さんの正体は、月狂四郎さんという実在のKDP作家・セルフパブリッシング作家・アマチュア作家です。本編中における幾つかの出来事は、月狂さんの実体験に基づいています。

とはいうものの、森さん(地雷ZERO運動)=月狂四郎という単純なものではなくて、実在する複数のモデルが存在します。

架空の作家・毒牙夜蝶が誕生するきっかけとなったAmazonカスタマーレビューがあります。『秘伝 いとも簡単に語彙を増やす方法』という電子書籍を対象としたものです。

秘伝 いとも簡単に語彙を増やす方法秘伝 いとも簡単に語彙を増やす方法 [Kindle版]
月狂四郎 (著)
出版: 月狂四郎; 2版 (2014/2/2)

この本の著者は、月狂四郎さん。発売直後に、2人の読者が低評価レビューを投稿しました。

jirai_netamoto
引用元ページのリンク

酷評しているレビュワーのペンネームが『自来也』と『エバンジェリストZORO』なのです。おふたりとも、KDP本のカスタマーレビュー欄ではおなじみの顔であり、セルフパブリッシング作家たちのあいだでも有名です。自来ZORO運動。

自作の電子書籍を酷評された月狂さんは、腹いせにブログ記事で反論を試みます。

オネエKDP作家毒牙夜蝶氏インタビュー
オネエKDP作家毒牙夜蝶氏インタビューその2

そして、これだけでは収まらなかったのか、あるいは興が乗ってしまったのか━━『毒牙夜蝶』名義を使って、ブラックユーモアをうまく寓意でコーティングしたAmazonカスタマーレビュワー批判小説を書いて個人出版した、というわけです。

本書『泡姫ありえない』に登場する村八分カルテットという4人組にも実在のモデルが存在します。

村八分カルテットの通称の由来は、この有力者にたてつくと、露骨に業界で干されてしまうという点に由来する。まだ始まって間もない電子書籍の世界で、このメンバーから協力を得られないということは、無名作家のキャリアをひた走ることを意味する。

どう見ても『XXXXXXXXxX』なわけですが、月狂さんは以前に『XXXXXXXXxX』と揉め事を起こしており、その時の悔しかった体験や、その後にも起きたKDP界隈のトラブルを参考にして、人物造型をおこなっているようです。(雨降って地固まる。いまの2人の間に確執はありません。表面上は仲良くやっています)

電子書籍レビュワー森さん(地雷ZERO運動)は、エバンジェリストZOROであり自来也であり月狂四郎であり、いまだ成果を出していない作家志望たちであり、2ちゃんねるの創作文芸板に入り浸っている連中であり、自己顕示欲を満たしたいがために無責任なレビューをネット上に投稿する匿名の読者もどきたちであり、すなわち、わたしであり、あなたです。

ほかにも混ざっています。辛口レビュワーのmizukiさん某事変をはじめとした、いろんな事件や人物が。

本書『泡姫ありえない』は、無駄にハイコンテクストな小説であり、おそらく、KDPを利用している人たちですら、全ての元ネタを把握しきれないと思います。

問題児が書いた問題作


腹いせで書いた小説━━と申し上げましたが、怒りに任せて書いたとは思えないほど、小説としての体をなしています。けっして恨み言を優先することなく、読者を喜ばせることを忘れていません。面白かったです。

Amazonのカスタマーレビューに激高したのち、ブログでジョークをまじえた反論記事を書き、閃いたアイデアをもとにフィクションを執筆して、表紙用のイラストを自分で描いて、電子書籍ストアで販売開始。

このようなフットワークの軽さとバイタリティの持ち主であれば、傑作を生み出す日はそう遠くないかもしれません。心待ちにしています。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • 泡姫ありえない
  • 著者:毒牙夜蝶
  • 価格:250円
  • 読了にかかる時間:約1時間(個人差があります)

「実話に基づいた物語」度
★★★★☆(4)
「エンタメ」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


毒牙夜蝶 (著)さん。『どくが・やちょう』と読みます。作家。元デリバリーヘルス嬢。


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