こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
・高額な費用を請求する自費出版ビジネスの暴露小説
・意表をつく、泣けるストーリー展開
・小説家志望者には、とくに響くであろう設定
タイトルや内容説明からはわかりにくいですが、本書『夜の色』は、自費出版会社の悪徳商法を暴露している長編小説です。
自費出版とは何か?
このようなキャッチコピーを、新聞の広告欄やネット広告でいちどは見たことがあるはずです。
百田尚樹『夢を売る男』という小説においても同じような暴露がなされていますが、本書では自費出版会社のさまざまな手口を紹介すると共に、感傷演出━━あざといほどの泣き要素が加えられています。
これには意表をつかれました。
本書の特徴を一口に言い表すならば━━『夢を売る男』+『世界の中心で、愛をさけぶ』━━まさに足して2で割ったような感じです。
昼ドラ/昼メロのような、俗情に訴えかけるベタな演出が成功しています。
本書『夜の色』の冒頭シーン。ふたりの男がコンテストの選考をおこなっています。
はげしい眠気と戦いながら『ポエム大賞』や『短編小説大賞』の応募原稿を、◯と✕の印をつけたダンボール箱に振り分けています。
ただし。文芸コンテストの選考をしているはずなのに、ふたりとも、まともに原稿を読んでいません。
それもそのはず。ふたりが所属する『日新出版』は、コンテスト商法(別名・希望商法)で荒稼ぎする、悪質な自費出版会社。
コンテスト応募者の氏名住所電話番号は、詐欺師たちの金ヅル━━見込み客リストなのです。
応募原稿のうち、とりあえず日本語文法がまともな書き手には、さっそく担当者がつきます。
『類をみない才能を感じます』『全国の書店を通じて世に送り出すべき作品です』と言っておだてあげ、応募者に共同出版をもちかけて、200〜350万円とも言われる費用の支払いを請求するわけです。
日新出版の営業マン━━坂井は、ある寿司屋を訪れました。店主が『ポエム大賞』の応募者なのです。コンテスト商法のカモということになります。
きょうは契約締結の予定日。しかし、直前になって拒否を告げられます。
200万円の共同出版を取りやめたい━━。それを告げたのは、寿司屋の大将の姪っ子でした。『咲』という名前の若い女性です。
共同出版の営業マンをやっていれば、このようなことは珍しくありません。しかし、坂井は戸惑います。なぜか?
相手の女性━━咲は、高校時代から付き合いのある元恋人であり、3年前まで同棲していたからです。坂井のもとを何もいわず突然に立ち去って以来の、まさに思いがけない再会でした。
記憶喪失?━━ちがいます。なぜ彼女は、かつて同棲していたほどの恋人に対して、そっけない態度をとったのか?
ややネタバレ気味ではありますが、ぜひとも本書を手にとっていただきたいので、決定的なシーンを引用します。
自費出版会社の営業マンこと坂井智(さかい・さとし?)が、ある場所にたどりついた場面。寿司屋の大将が代わりに応募した、すなわち咲が書いた詩集のなかで詠われていた、夜の色━━うつくしい夜空を眺めることができる空き地です。
その場所には先客がいました。かつての恋人。咲です。
いくら久しぶりの再会といえども、妙に噛み合わない2人のやりとり。これは、男のほう━━坂井がある事実を知らされていないためです。
と、いうわけです。上記引用部をネタバレであると認識するためには、基本的な社会常識を要します。このくだりが全体の50%あたり。まさに、折り返し地点です。
3年前、何も言わずに出て行った咲の真意━━それを知った営業マン・坂井は、ある決意をして、自分が所属する組織と相対する覚悟を決めます。
こんな感じで、本書『夜の色』の中盤から終盤にかけて、昼メロ的な涙腺をくすぐる怒涛のごとき展開が用意されています。オススメの一作です。
ところで。すでに倒産しているので実名を出しますが、『新風舎』という自費出版会社がありました。2008年に経営破たんした際に、一部マスコミでも実態が報じられました。
本書に登場する『日新出版』のモデルのひとつですね。
2006年には『碧天舎』という自費出版会社が破綻しています。グループ企業であったBL系出版社『ビブロス』が、あおりを受けて連鎖倒産しているので、記憶に残っている人が多いかもしれません。
新風舎は、ある次期には『文芸社』をしのいで業界一位のシェアを誇っていたこともあります。1000件以上の共同出版案件を残したまま、25億の負債が発覚して破綻しました。
自費出版会社=すべて悪ではありません(共同出版やコンテスト商法は、ほとんど悪)。適切な価格で請け負っている出版社も実在します。
時代背景が異なるため牽強付会になりますが、『遠野物語』は柳田國男の手による自費出版です。(参考記事)
悪いやつがいるのは世の常だとしても、自分を世間に売り出したいという強い執着が、多くの人々の判断を狂わせてしまうようです。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
はつら綾之助さん。『はつら・あやのすけ』と読みます。
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つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・高額な費用を請求する自費出版ビジネスの暴露小説
・意表をつく、泣けるストーリー展開
・小説家志望者には、とくに響くであろう設定
夜の色 [Kindle版]
はつら綾之助 (著)
出版: BookSpace (2013/10/18)
共同出版を売りにしている日新出版に勤めている坂井智は、仕事にやる気を見いだせぬ毎日を送っていた。先輩の川島の言いなりになり、何となく生きている。
ただ、彼は茶髪とピアスでいることだけは誰に何を言われようがやめなかった。それは、かつての婚約者との間にあるしがらみであった。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
読者の意表をついた暴露小説
タイトルや内容説明からはわかりにくいですが、本書『夜の色』は、自費出版会社の悪徳商法を暴露している長編小説です。
自費出版とは何か?
あなたの原稿が、本になります。
あなたの作品を、本にします。
全国の書店に、あなたの本が並びます。
出版相談会、全国で随時開催中。
このようなキャッチコピーを、新聞の広告欄やネット広告でいちどは見たことがあるはずです。
百田尚樹『夢を売る男』という小説においても同じような暴露がなされていますが、本書では自費出版会社のさまざまな手口を紹介すると共に、感傷演出━━あざといほどの泣き要素が加えられています。
これには意表をつかれました。
本書の特徴を一口に言い表すならば━━『夢を売る男』+『世界の中心で、愛をさけぶ』━━まさに足して2で割ったような感じです。
昼ドラ/昼メロのような、俗情に訴えかけるベタな演出が成功しています。
コンテスト商法の実態
本書『夜の色』の冒頭シーン。ふたりの男がコンテストの選考をおこなっています。
はげしい眠気と戦いながら『ポエム大賞』や『短編小説大賞』の応募原稿を、◯と✕の印をつけたダンボール箱に振り分けています。
ただし。文芸コンテストの選考をしているはずなのに、ふたりとも、まともに原稿を読んでいません。
それもそのはず。ふたりが所属する『日新出版』は、コンテスト商法(別名・希望商法)で荒稼ぎする、悪質な自費出版会社。
コンテスト応募者の氏名住所電話番号は、詐欺師たちの金ヅル━━見込み客リストなのです。
応募原稿のうち、とりあえず日本語文法がまともな書き手には、さっそく担当者がつきます。
『類をみない才能を感じます』『全国の書店を通じて世に送り出すべき作品です』と言っておだてあげ、応募者に共同出版をもちかけて、200〜350万円とも言われる費用の支払いを請求するわけです。
出会い
日新出版の営業マン━━坂井は、ある寿司屋を訪れました。店主が『ポエム大賞』の応募者なのです。コンテスト商法のカモということになります。
きょうは契約締結の予定日。しかし、直前になって拒否を告げられます。
200万円の共同出版を取りやめたい━━。それを告げたのは、寿司屋の大将の姪っ子でした。『咲』という名前の若い女性です。
「あの詩はわたしが書いたものなんです」
「理由は簡単です。それは本にしたくて書いたものじゃないんです。叔父が勝手に応募してしまったことなんです」
『夜の色』から引用。以下、同じ。
共同出版の営業マンをやっていれば、このようなことは珍しくありません。しかし、坂井は戸惑います。なぜか?
相手の女性━━咲は、高校時代から付き合いのある元恋人であり、3年前まで同棲していたからです。坂井のもとを何もいわず突然に立ち去って以来の、まさに思いがけない再会でした。
坂井はその女性に見覚えがあった。それどころじゃない。彼は彼女のことをよく知っていたのだ。何しろ、彼女とはかつて付き合っていたのだから。
(中略)
しかし、咲は坂井をまっすぐに見つめて「初めまして」と言った。
(中略)
見事に咲は無表情だ。つられて少しくらい笑ってくれてもいいものを。
「坂井と申します。ご挨拶が遅れまして」
「よろしくお願いします」と、咲は屈託ない笑顔を見せる。長いまつ毛で、大きな潤んだお目めで、ふくよかな唇で。にこり、笑う。
まるで知らない人に向ける笑顔だ。
記憶喪失?━━ちがいます。なぜ彼女は、かつて同棲していたほどの恋人に対して、そっけない態度をとったのか?
彼女の3年間
ややネタバレ気味ではありますが、ぜひとも本書を手にとっていただきたいので、決定的なシーンを引用します。
自費出版会社の営業マンこと坂井智(さかい・さとし?)が、ある場所にたどりついた場面。寿司屋の大将が代わりに応募した、すなわち咲が書いた詩集のなかで詠われていた、夜の色━━うつくしい夜空を眺めることができる空き地です。
その場所には先客がいました。かつての恋人。咲です。
「久しぶりだね。元気だった?」
「久しぶりって……この前会ったばかりだろ」
(中略)
「ごめん、そうだったよね」答えるまでに、妙な間がある。戸惑うような、探るような声。
「日新出版の坂井。って、智だったんだよね」
「何言ってんだよ、今更」坂井はしゃがみこんで、ポケットから煙草を出して口にくわえた。
いくら久しぶりの再会といえども、妙に噛み合わない2人のやりとり。これは、男のほう━━坂井がある事実を知らされていないためです。
「でも、もったいないよ。本当にいい作品だったのに」
「どういい作品だったの」
「どうって」
坂井は言葉に詰まった。
「類まれなる才能を感じる━━」
「ストレス溜まるって煙草吸ってる人に言われても説得力ないよ」
咲は坂井の言葉を遮るようにそう言うと、急に立ち上がった。その拍子に、カランと乾いた音をたてて咲の足下に転がる白い棒が見えた。坂井はそれを見たことがある。
と、いうわけです。上記引用部をネタバレであると認識するためには、基本的な社会常識を要します。このくだりが全体の50%あたり。まさに、折り返し地点です。
3年前、何も言わずに出て行った咲の真意━━それを知った営業マン・坂井は、ある決意をして、自分が所属する組織と相対する覚悟を決めます。
感想
こんな感じで、本書『夜の色』の中盤から終盤にかけて、昼メロ的な涙腺をくすぐる怒涛のごとき展開が用意されています。オススメの一作です。
ところで。すでに倒産しているので実名を出しますが、『新風舎』という自費出版会社がありました。2008年に経営破たんした際に、一部マスコミでも実態が報じられました。
本書に登場する『日新出版』のモデルのひとつですね。
2006年には『碧天舎』という自費出版会社が破綻しています。グループ企業であったBL系出版社『ビブロス』が、あおりを受けて連鎖倒産しているので、記憶に残っている人が多いかもしれません。
新風舎は、ある次期には『文芸社』をしのいで業界一位のシェアを誇っていたこともあります。1000件以上の共同出版案件を残したまま、25億の負債が発覚して破綻しました。
自費出版会社=すべて悪ではありません(共同出版やコンテスト商法は、ほとんど悪)。適切な価格で請け負っている出版社も実在します。
時代背景が異なるため牽強付会になりますが、『遠野物語』は柳田國男の手による自費出版です。(参考記事)
悪いやつがいるのは世の常だとしても、自分を世間に売り出したいという強い執着が、多くの人々の判断を狂わせてしまうようです。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
著者について
はつら綾之助さん。『はつら・あやのすけ』と読みます。
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