こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


ある感情を禁じられている世界の学園ミステリ
・愛しあうふたりを学級裁判で断罪する
・この世の真実を突きつける残酷な結末

×情。×情。 [Kindle版]
いずみ ちひろ (著)

舞台は×が禁止された国。

×を持っているのではと疑いを掛けられた主人公策矢は、×情審判に掛けられることになる。

昨日まで一緒に授業を受けていたクラスメートの中に彼を陥れる『敵』がいるかもしれない状況の中、彼は親友の利樹とともに戦うことを決意する。昨日までの日常を取り戻すために。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

世にも奇妙な禁止法


 ×ヲ禁ズル。

 国内ニオイテ、×モシクハソレニ準ズル語オヨビ×ノ外来語訳語ノ使用ヲ禁止スル。

 国民ハ万事ニオイテ、思考ニサエモ、×ヲ持チ込ンデハナラナイ。

×情。』から引用。以下おなじ

本書『×情。』は バツじょう と読みます。『×』は、伏せ字をあらわしています。

なにを、伏せているのか?

『愛』です。つまり、『×情(バツじょう)』とは『愛情(あいじょう)』のことをあらわしています。

本書『×情。』は、愛を禁じられたディストピア世界の学園内でおこなわれる、魔女狩りにも似た学級裁判を描いた小説です。

『愛』は、殺人の次に重い罪


 その日は、突然に訪れた。

 テレビやラジオ、新聞、雑誌、漫画、小説、歌――全てから、『×』という文字が、言葉が、思想が、消されてしまったのだ。

 紙面に印刷された『×』という文字は黒く塗りつぶされて虫食いとなった。

 ×を語ることはもちろん、考えることさえも悪とされた。特に二十歳を過ぎ社会的に大人と認められた者への取り締まりは厳しく、×規制が始まってすぐの頃は捕まる者が相次いだ。

 ×を語る行為は、殺人の次に重い罪とされたのだ。

━━法や教育の名のもとに、愛を忘れるよう矯正された少年少女たち。

国家権力が推奨する糾弾の方法━━学級裁判制度(通称・×情審判)によって、いまだ愛を胸に秘めつづけているひと組の学生カップルを、おなじクラスメイトたちが退学に追い込もうとします。

学校の7時間目に開廷する『×情審判』の目的は、ある男子生徒と女子生徒のあいだに育まれた『愛』を立証して、ふたりを断罪すること。

裁判官は、担任の教師。
おなじクラスメイトたちが陪審員を務めて、過半数を制した意見をもって判決とみなします。

×情審判のルール


方法は討論。

『容疑者は×を持つか否か』を議案にし、最終的に参加者全員に多数決を取り、過半数以上の肯定で議案は可決。容疑者は、その時点で有罪となる。

被疑者のふたりを弁護する『肯定側』と、罪を暴く『否定側』それぞれ5名ずつに分かれて、それぞれの立場から陪審員たちに『×情』の存在証明あるいは不在証明を提示しあいます。

これがまた、じつに皮肉な構図なのです。

愛を忘れてしまったクラスメイトたちが、愛しあう男女ふたりを断罪するために、愛の実在を立証する。

一方、愛しあう男女ふたりが、罪を免れるために愛の実在を否定する。

『×情審判』において、奇妙なせめぎあいが繰り広げられる。

あたかも……悪人が善の正当性を主張し、善人が悪の正当性を主張するかのごとき、じつに滑稽で矛盾きわまりない光景です。この上なく絶望的なディストピア世界をうまく表現しています。

このようにして。思春期の不安定さを残しているがゆえに、歪んだ感情をむき出しにして、普段から気にくわなかった同じクラスメイトを追い詰めるという━━世にも醜悪な学級裁判が始まります。

感想


おもしろかったです。アイデアが素晴らしい。著者であるいずみちひろさんの公式ブログによれば━━

理系学生が独学で引きこもって執筆した形がこれです笑

たしか大学四年の頭頃に書いた作品だったと思います。

とあるセリフを言わせたいがために書いた作品です。

なんかのラノベの賞に送りましたが、見事一次選考落選でしたw


ということらしいです。

なるほど。いまどきのライトノベルと比べれば、キャラクターに特徴がありませんね。(ただし。本書の場合、人物造型はステレオタイプのほうが良いと思う)。
文章は論理的で読みやすいものの、語句の使い方や文体には生硬さを感じました。

しかしながら。本書は、ディストピアSF、あるいは『日常の謎』を扱ったミステリー小説として通用すると思います。繰り返しますが、アイデアは秀逸です。

『×情審判』がはじまる中盤あたりから終盤にかけて、思いがけない展開が立ち上がります。そうなればラストまで一直線。予想していなかった結末に驚きました。お見事です。

本書を読み終えたあと、著者が販売しているほかの作品にも俄然興味がわいてきました。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • ×情。
  • 著者:いずみ ちひろ
  • 価格:250円
  • 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)

「ミステリ」度
★★★★☆(4)
「意外な結末」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


いずみちひろさん。公式ブログは『自由気ままに生きていたいの。』。

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