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つんどく速報ライター☆イマガワです。
・この小説レビュー記事はネタバレを含みます
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イディオット [改訂版] [Kindle版]
夏居暑 (著)
出版: Spoonerizm-novels; 1版 (2013/12/8)
吐き気と眩暈の中で目が覚めると見知らぬ部屋にいた。洗面所の鏡には見覚えのない自分の顔が映し出されている。男は名前も思い出せない事に気付き、記憶喪失を疑い始める。
部屋の中から、携帯電話や免許証、カレンダーを見つけて情報を集める。男の名前は波多野だとわかったが、あやふやな気もする。そして、何者かに見張られているような錯覚の中、2013年の7月13日だと分かった。
ドアを叩く来訪者が現れ戦慄する。来訪者が誰なのか確認に行くと、また眩しい光が頭を占拠し気を失ってしまう。次に目が覚めたとき、日付は2013年7月1日をさしていた。
~ タイムスリップミステリー ~『この謎を解く事が出来るか?』
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
この記事は、ネタバレを含みます。
本書『イディオット [改訂版]』を、ぜひとも多くの人に読んで驚いてもらいたいのですが……物語の核心に触れないまま紹介した場合、ごくありふれた不条理サスペンス小説にしか受け取ってもらえないからです。
ちがいます。本書は、けっして凡作ではありません。
先へ進むごとに━━小説読者としての思い込みが覆され、驚くべき真相と仕掛けが明らかになるミステリー小説です。まさに映像化は不可能な内容。
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(゚д゚)ネタバレ スルヨー
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レベル1のネタバレ
本書『イディオット [改訂版]』はメタフィクションです。
メタフィクションとは『小説・漫画・映画などの登場人物たちが、自分のことを虚構内の存在であると自覚しているフィクション』のことです。(一言では定義づけられない。くわしくは→ メタフィクション - Wikipedia)
たとえば、漫画の登場人物が「このマンガの作者は頭が悪いから」とか「危ない時事ネタはやめろ! このまえ編集長に怒られたばかりだろ!」などと自己言及するのは、典型的なメタフィクション表現です。
本書の主人公である記憶喪失の若い男も、メタフィクション的な登場人物です。
あらすじ
暗闇の中で、激しい吐き気をもよおす。グラグラと頭を揺らされている様に気分が悪い。次第に、ぼんやりと意識が見て取れるようになり、深淵から這いずりだそうとする。
男は、ようやく目を開け、弾かれる様に起き上がった。
『イディオット [改訂版]』から引用
プロローグ━━主人公 が見知らぬ部屋で目を覚ます直前に置かれている文章です。
この箇所は、気絶状態からの覚醒を表現しているもの━━ではなく、まさに虚構内存在としての魂を得た瞬間を描写しています。フィクションにおける『主人公』が誕生した瞬間です。
このあと、一人称の語り手━━主人公は、部屋のなかで鏡を見つけて。ここではじめて自分が若い男であることを自覚します。
部屋のなかを探っているうちに、鏡に映っていた人物と同じ顔つきの写真付き免許証を見つけたり、携帯電話のディスプレイで現在の日月時を確認したり。
そんな感じで、虚構内存在として生まれたばかりの『若い男』に、すこしずつ設定が付与されていくわけです。
筒井康隆によるメタフィクション小説の傑作『虚人たち』とは異なり、本書の序盤や中盤においては、この物語がメタフィクションであることは伏せられています。
つまり。本書の主人公である『若い男』は、われわれ読者と同様に、つゆほども自分の実存━━生身の人間であることを疑っていないのです。
レベル2のネタバレ
本編中において。主人公の波多野秀介は、めまいに襲われて幾度も突発的に気絶します。
しかし、奇妙なことが起こります。気絶したのは7月13日だったはずなのに、つぎに目が覚めるのは7月1日なのです。
時間は過去だけでなく、未来にも飛んでしまう。
これは本当に時空間移動というものなのか? それとも何者かの人為的な罠なのか?
波多野の前に現れる謎の人物たち。 波多野の恋人を名乗る女と二人組の殺し屋。
翻弄される極限状態の中で、波多野が取る選択とは?
ノンストップ!タイムスリップミステリー!
『イディオット [改訂版]』の内容説明から引用
序盤や中盤においては、タイムスリップミステリの体裁です。
すなわち━━かならず7月22日に殺されてしまう恋人をその宿命から救うために、不条理な時系列および記憶の迷宮を何度もさまよい続ける。その果てに待つものは……。
映画『メメント』のような記憶サスペンス? ちがいます、ケフィアです。
じつをいうと、主人公にまつわる記憶と時間認識の乱れは、ほかの登場人物たちの仕業です。
ただし、携帯電話の時刻表示を操作しているわけではありません。
本書『イディオット [改訂版]』に登場する人物のなかに、メタフィクション的な能力を用いることによって本来、虚構内存在にとって不可触であるはずの、小説内時間を操作できる者がいるのです。
序盤や中盤では、その登場人物たちはフィクションの制約に縛られているフリをしています。その制約とは、すなわち『フィクションの登場人物は、自分たちが虚構内存在であることを知らないし、たとえ気づいたとしても語らない』というものです。
いったい何のために? それは、かならず7月22日に殺されてしま恋人の宿命━━本書の悲惨な結末と、大いに関係があります。
ネタバレ中断。もし、すこしでも興味が湧いたのであれば。ここから先は、実際の作品を手にとって、ご自分の目で確かめることを推奨します。
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(゚д゚)ネタバレ スルヨー
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レベル3の超ネタバレ
結論から言えば、電子書籍のバグです。
本書『イディオット [改訂版]』は、セルフパブリッシングの電子書籍小説である。
紙に印刷された小説や漫画が引き起こすのは、せいぜい乱丁・落丁・誤字脱字です。しかし、コンピュータを経由して入出力がおこなわれる電子書籍(デジタルデータ)ならば、物理法則にとらわれない未知の乱丁━━バグが発生する可能性を否定できません。
もしかすると……電子書籍ストアで販売する前の完成原稿は、公式の内容説明のとおり、よくできた『ノンストップ!タイムスリップミステリー!』だったのかもしれない。
しかし、セルフパブリッシング・プラットフォームのシステム内でデータ変換された際に、なんらかのバグが発生して、作者の意思とはかけ離れた、思いもかけないメタフィクション性を帯びてしまったとしたら……。
登場人物たち━━虚構内存在に独立した意思が宿り、物語の結末すなわち自分たちが生きる世界の終焉を察知して、主人公の記憶や時系列を操作しはじめた……という。
この『レベル3のネタバレ』における考察の一部は、わたしが本書を読み終えたあとに感じた解釈にすぎません。
読者の考察によって完成する物語ともいえるわけで、想像力の翼を思いきり広げたくなる小説です。
意外な持ち球が明らかになった
著者である夏居暑さんの作品は、何度もレビューする機会がありました。
【参考リンク】
■そして誰もいなくなるのか? 純粋知的ゲーム小説『Point Kill G』
■ナナロク世代の犯罪小説『強請屋ドットコム』
夏居さんの作品に共通していたのは『極限状況下の頭脳ゲーム+社会悪の告発』というテーマですが、本書『イディオット [改訂版]』においては、秘めたる前衛性を垣間見ることができました。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- イディオット [改訂版]
- 著者:夏居暑
- 価格:99円
- 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)
「不条理」度 ★★★★☆(4) 「ミステリ」度 ★★★★☆(4) 「満足」度 ★★★★★(5) 「総合」 ★★★★☆(4)
著者について
夏居暑さん(@ATu72i)。『なつい・あつ』と読みます。
「夏は暑い」の頭音転換でスプーナー誤法とも呼ばれるこのペンネームを思いつくまでに4年を費やしたそうです。
メタフィクション作品といえば
メタっ娘 [Kindle版]
佐々木直也 (著)
出版: disolo inc.; β(ver 0.06)版 (2013/12/30)
【レビュー有り】
『メタっ娘』虚構内存在であることを自覚しているラノベヒロインの異世界転移ファンタジー小説
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