こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・ネットショピングサイトの不正アクセス事件にまつわる冤罪
・現代のネットセキュリティ犯罪をわかりやすく
・意外な犯人。先入観に惑わされるな!

2オクロック2オクロック [Kindle版]
門屋亮 (著)

みゆきがハッキングの容疑で逮捕された?

高萩正太郎は耳を疑った。ハッキングを受けたのは、急成長している国内のインターネットサイト、アイマート・ドットコム。さらに犯人が作成したコンピューターウイルスによって顧客の個人情報がインターネットに流出。
その事件の容疑者として、恋人の本田みゆきが逮捕されたのだ。

2オクロックと名乗る人物からの犯行声明。そんなとき、謎の男が高萩に連絡をとってくる。

男は、犯人は本田みゆきではないと告げる。高萩は、男の指示をうけて、まちる野のカフェに向かう。高萩は幼稚園(プリスクール)と呼ばれるハッカーのグループの存在を知る。

みゆきはハッカーだったのか。アイマート・ドットコムをハッキングした真犯人は誰か。そして2オクロックの目的とは。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

発端


アイマート・ドットコムの秘密をいただきました。

2オクロック

コンピュータウィルスに感染したパソコンによって、自動的に投稿されたテキストです。
巨大掲示板にも拡散して、クリックすれば誰でも顧客データをダウンロードできる状態で放置されていました。

本書『2オクロック』は、日本最大級のネットショッピングサイト『アイマート・ドットコム』の不正アクセス事件を題材にした、ネットセキュリティ・ミステリです。

あらすじ


なんの前触れなく、高萩正太郎の部屋に警察が踏み込んできます。自宅のアクセスポイントを経由した不正なアクセスを検知したというのです。
警察が捜査しているのは━━ネットショッピングサイト『アイマート・ドッコム』の顧客情報リストが、大量に流出した事件について。

ノートパソコンや携帯電話を押収されて、戸惑う正太郎。しかし、まったく身に覚えがありません。
警察署に連行されて、事情聴取を受けるものの━━あっけなく犯人が逮捕されます。

容疑者の名前は、本田みゆき。正太郎の恋人です。

じつは。みゆきは高校在学中に米国のハッキングコンテストで優勝しており、国際的なハッカー集団である『プリスクール』に最年少で入会を許されたという経歴の持ち主です。

そして。2年前にも、みゆきは不正アクセス事件で警察の事情聴取を受けていました。そのときは、犯行に関わっていないものの、彼女が過去に作成したハッキングツールが使用されていたので疑われました。

恋人が隠していた過去を知ってしまい、戸惑う正太郎。

ところで。警察に携帯電話を押収されてしまったので、正太郎が新しいスマホを契約すると━━新しい電話番号を誰にもしらせていないのに電話がかかってきます。

聴き覚えのない中年男性の声。その人物は『松川』と名乗りました。
いわく━━いま世間で騒ぎをおこしている『2オクロック』はニセモノであり、自分こそがホンモノの『2オクロック』であると主張します。

正太郎は訝しみながらも━━。自称・凄腕ハッカーの松川と行動を共にして、恋人の無実を証明するために、ニセモノの『2オクロック』の正体をつきとめることを決意します。

ヤバイおっさんが大活躍


怪盗『2オクロック』を自称する人物━━松川から呼び出しを受けたときの出来事。
場所は、自宅すぐそばのカレーショップ店内。電話越しに、正太郎はおかしな指示を受けます。以下は、会話の内容です。

< 携帯のネットワークの設定を開いて、利用可能な無線のアクセスポイントから、438で始まる名前のアクセスポイントを選ぶ。パスワードを聞かれたら、今からいうパスワードを入力するんだ。 >

2オクロック』から引用。以下おなじ

正太郎は戸惑いながらも、言われたとおりに。無線LANのアクセスポイントへのログインに成功します。

< おめでとう。その無線の電波がどこから届いているかわかる? >

「いえ、わかりません」

< きみのマンションからだよ。きみの隣りの住人が持っている、無線ルーターと接続している。最新の機種なら、無線ルーターの電波は障害物がなければ百メートルくらいは届く。
(中略)
今そこで、きみがアクセスポイントに接続して、どこかのサイトに不正アクセスしたとしたら、IPアドレスから隣の部屋の彼が逮捕されることになるはずだ >

「そうなんですか?」

< そう。それはさておき。きみは立派な犯罪を犯したよ。パスワードを不正に入手して他人のネットワークに侵入したから >

この電話の主が隣の住人だった、というオチではありません。
電話の主━━2オクロックこと松川が、無線ルーターのWEP暗号あるいはWPS(ワンタッチ接続)機能の脆弱性を利用して、他人のパスワードを不正に入手したのです。

ほかにも。わたしたちの生活にはもはや欠かせないものとなった携帯電話(スマホ)にまつわる脆弱性を実践してみせるくだりもあります。

怪盗2オクロックこと松川は、ソーシャルエンジニアリング(セキュリティにまつわる人的ミスを誘発する技術)の達人です。
ときには、フィッシング詐欺の技術を応用することで、口座契約者みずからに物理キーを使わせて見事に大金をかすめとってみせます。とてもヤバイおっさんです。

本書『2オクロック』は、現代のコンピュータあるいはネットワークセキュリティにまつわる話題がまんべんなく散りばめられている小説です。わかりやすくて、おもしろい。

感想


事件の真犯人は、意外な人物です。
しかも意外な動機によって引き起こされたものであり、わたしたち読者の先入観をうまく利用しています。驚きました。

本書のテーマは、セキュリティだけではありません。
『恋人たちは、お互いのことを何も知らない場合が少なくない』ことを示唆する物語でもあります。

正太郎が、いまは無実の罪で勾留されている恋人と過去に交わした何気ない会話の数々を、事件調査の端々で思い出して、本当の意味に思い当たる。
恋人のことを何も知らなかった━━もっと切実に知ろうとしていなかったことに、ようやく気がつくわけです。

ところで。前作『まちる通りの殺人 』に引き続き、本書にも『まちる野』というヤバイ街が登場します。
埼玉県内に設定した架空の土地なのですが、ますます規格外な人間たちが巣食う街であることが明らかになっています。

きっとシリーズ第3弾もあると思うのですが、次回作ではどのようなアブナイ連中を創造してくれるのか……とても楽しみです。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • 2オクロック
  • 著者:門屋亮
  • 価格:250円
  • 読了にかかる時間:約1.5時間(個人差があります)

「ミステリ」度
★★★★☆(4)
「セキリティ薀蓄」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★☆(4)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


門屋亮さん(@ryokdy)。『かどや・りょう』と読みます。1974年生まれ。九州芸術工科大学卒業。サイボウズ株式会社勤務。

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