こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
・有名童話の残酷なパロディ短編集
・オオカミ少年は、あのあと数十年ずっと村八分にされていた!
・『本当は怖い~』シリーズが好きなひとにオススメ
つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・有名童話の残酷なパロディ短編集
・オオカミ少年は、あのあと数十年ずっと村八分にされていた!
・『本当は怖い~』シリーズが好きなひとにオススメ
新説童話物語 [Kindle版]
大村吉高 (著)
出版: 大村吉高; 1版 (2013/12/28)
誰もが知る物語に、「もしも」という悪魔が潜んでいたら、一体どんな結末になるのやら。 童話における「もしも」が織り成す四篇の物語。
【目次】
・新説 シンデレラ
・新説 北風と太陽
・新説 金の斧
・新説 三匹の子ブタ
不動産屋を営むウルフ氏の元に、土地を借りに訪れたのは三匹の子ブタの兄弟。 賃借人と賃貸人の間で巻き起こる騒動と、その水面下で錯綜する野心。そして復讐心。
最後に笑うのは一体誰か・・・・・・。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
有名童話をリビルドする
本書『新説童話物語』の収録作は、4つ。
うち『新説 北風と太陽』は、単純なパロディです。イソップ寓話の後日談(リベンジ対決)を描いています。
ほかの3作は、イソップだけでなくグリム童話も掛けあわせて、大胆に再構築したのち従来とは異なる解釈(真相)を与えています。
いわば『Rebuid of Aesop and Grimm』という趣向の短編小説集です。
なかでも秀逸なのは『新説 金の斧』と『新説 三匹の子ブタ』の2作品です。
正直に言うと……読むまえは舐めてかかっていました。
この手のパロディは、倉橋由美子『大人のための残酷童話』が、改変の着想や幻想描写において群を抜いているからです。
そうでなくても。グリム童話の初版にさかのぼれば「じつは残酷な内容であった」━━という言説は、現代においてずいぶんと浸透しているからです。
しかしながら。本書『新説童話物語』は、われわれ読者の意表をつきます。
よく知っている童話なのにもかかわらず。まったく先が読めない展開に、Kindle端末の画面をタップする手が止まりませんでした。著者のストーリーテリングによって、グイグイと好奇心を引き寄せられます。
『新説 シンデレラ』
ホムンクルスとしてこの世に生をうけた灰かぶり姫が、苦難のうちに黒魔術を習得して、我が身の幸福の成就とひきかえに悪魔と契約して、その代償を贖うために人間の血を求める━━その顛末です。
終盤において、ある童話の悪役を彷彿とさせる人格へと変容していくのですが……。グロテスクでありながらブラックユーモアに満ちた一作。
ただし、この作品は序の口です。
つぎに紹介する2つのパロディ童話が、特におもしろい。
『新説 金の斧 』
樵(きこり)の老人が、森の泉に鉄の斧を落としてしまった。ジャーン! 女神が登場。正直に返答すると、褒美だと言って金の斧と銀の斧を手渡される。
しかし、老人は「そんなものはいらない。おれの斧を返せ!」と言って、女神を叱りつける。
━━ここまでならば。イソップ寓話『金の斧』の、ありがちなパロディです。
本書において特筆すべきは、樵(きこり)の老人が、おなじイソップ寓話『オオカミ少年』における主人公が年老いた姿であるという点。
じつは『金の斧』と『嘘をつく子供(オオカミ少年)』を、巧みに組み合わせたパロディ童話なのです。
つまり。むかし嘘つきだった少年が、成長して、いまは馬鹿をみるほどの正直者として生きている世界観を描いています。
元オオカミ少年━━樵(きこり)の老人は、数十年を経たいまも村八分にあっていました。
少年時代における虚言癖のせいで……オオカミの襲来に備えることができなかった村は、飼っていた羊をすべて失ったがゆえに苦難の歴史をたどったからです。村八分という形で怒りの矛先が向かうのは当然です。
身にしみて懲りた元オオカミ少年は、二度と嘘はつかず、たとえ損をしても正直者であろうとしてきました。売れば大金を得られるであろう金の斧に目もくれず、つつましく孤独な生活を送っていたのです。
物語は、それだけでは終わりません。
あるとき。村に各地の物語を収集している人物━━伝承ハンターがやってきます。このあたりから。サスペンスをはらむ幻想小説へと変容していきます。
「奴らには見えないのさ。気の毒なことだ」
「見えないって、何がですか?」
(中略)
「狼に決まっているだろう」
(中略)
「奴らには狼の姿が見えていないんだ」
『新説童話物語』から引用。以下おなじ
物語のラストにおいて、数十年前のオオカミ少年事件の真相があきらかになるのですが……。ことは単純ではありません。読めばわかる。
『新説 三匹の子ブタ』
本書『新説童話物語』における、いちばんのオススメ作品です。
オオカミと三匹の子ブタが登場するのは、原作どおり。
しかし。この世界では動物平等法なるものが施行されており、肉食動物が草食動物に危害を与えてはならない━━つまり、捕食してはならない社会が実現しています。
『新説 三匹の子ブタ』の主人公は、オオカミのウルフ氏です。
彼は、いつも肉欲に飢えていました。法律によって肉食を禁じられているからです。
ところで。ウルフ氏は、不動産屋を経営していました。そこへ、母親に連れられて子ブタの三兄弟がやってきます。
その後、毎月の地代を払えない怠け者の長男とヒッピーな次男に対して━━おなじみ、藁(わら)の家・木枝の家を、ウルフ氏(オオカミ)がぶち壊すシーンが登場します。
原作と異なるのは、子ブタ兄弟たちの関係性です。
以下は、不動産業者ウルフ氏と末っ子ブタの会話です。
「滞納者には危害を加えますよ。だから、お兄さんたちが滞納している地代を立て替えませんか?」と促すシーン。
「何をおっしゃいますか、ウルフさん。この生活は、ピグレス家の次の当主を決する戦いなのです。蹴落とすことはあっても、手助けするなど、万に一つもありません。(中略)」
じつは。三匹の子ブタたちは、名家・ピグレス家の跡継ぎであり、次期当主の座を争っている間柄なのです。骨肉ならぬ、トンコツの争い。
レンガの家の住人━━兄弟のなかでいちばん賢い末っ子・ポルク。本書においては、恐るべき性格の持ち主として描かれています。原作とのギャップがすごい。
さらに、この物語は。ある童話のエピソードと交わることで、思いがけない復讐譚へと発展していきます。どんでん返しを含むので、最後の最後まで見逃せません。
感想
ご紹介した『新説 金の斧』と『新説 三匹の子ブタ』。いずれの短編小説も、ある種のスリラー小説に仕上がっています。
まさに、メルヘン・サスペンス━━あるいは、メルヘン・スリラーと銘打つのがふさわしい、驚きと戦慄に満ちた読後感を得ることができるでしょう。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- 新説童話物語
- 著者:大村吉高 (著)
- 価格:100円
- 読了にかかる時間:約2時間(個人差があります)
「残虐パロディ」度 ★★★★★(5) 「サスペンス」度 ★★★★☆(4) 「満足」度 ★★★★☆(4) 「総合」 ★★★★☆(4)
著者について
大村吉高さん(@merry_andrew_1)。『おおむら・よしたか』と読みます。
好きな作家・詩人は、レイモンド・チャンドラー,レイモンド・カーヴァー,ポール・オースター,カール・サンドバーグ,アンドリュー・ヴァクス,安部公房,星新一,宮沢賢治,車谷長吉,谷川俊太郎。
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