こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・スクールカースト底辺と頂点の奇妙な関係
・階段から転落したふたりはホットラインで結ばれる
・『新青春エンタ』の正統な後継作品

キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄
藤崎 ほつま(著), るなツー(イラスト)
出版: らくがき文庫 (2014-04-09)

キミはボクにウソをつけない。

男子高校生「市原鳴海(いちはらなるみ)」は、クラス委員の優等生「新城明依(しんじょうめい)」に、衝撃的な告白をされる。過去のある事故以来、新城の頭の中に、市原の意識が流れ込んでくるようになったらしい。

テレパシーによって自分の思考がすべて筒抜けになっている事実にショックを受ける市原。その彼に対して、新城は「キミの友達になりたい」と申し出てくる。

クラスにおいて孤立していた市原と、クラスの中心人物である新城が、強引に行動を共にするようになり、市原の心境や周辺に変化が現れ始める。

市原の片思いの相手「江藤凛(えとうりん)」との距離も縮まり、状況は好転するかのように思えたが、夏休みのある日、殺人事件が発生した。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

ふたりの名探偵


本書には、2人の探偵役が登場します。ひとりは殺人事件を推理する探偵です。

もうひとりは、先述した探偵役が心に押し隠している過去や心情を推理する━━異能をそなえた探偵です。

さて。このままでは曖昧すぎて、何を言っているかわからないと思います。順を追って説明していきましょう。

ホットライン(直通回線)


高校2年生の男子。新城明依(しんじょうめい)と、市原鳴海(いちはらなるみ)。

ふたりは、ありふれた関係です。スクールカーストの頂点と底辺。
主人公である鳴海は、スクールカーストの最底辺に属しています。一方の新城は、イケメン&金持ち&優等生━━すなわちスクールカーストにおける殿上人(てんじょうびと)です。

隔絶しているふたり。
校内においては、会話するどころか目を合わせたことすらありませんでした。

しかし。ある日、とつぜん接点が生じます。
出会い頭に衝突したイケメンとカーストが、ともに階段から転落して全身を強打したのです。

大事にはいたりませんでしたが、この出来事によって奇妙な『ホットライン』が開通します。イケメンとカーストは、目にはみえない1本の回線で繋がってしまうのです。

「最初は言葉だったんだ。断片的な声が頭のなかに響いてくる。強く打った後遺症かと最初は思ったのだけど、やがて意味が通るほど明瞭な言葉の連なりになってきてね。

まるで自分の頭の中に、もう一人の別人格が生まれたような感覚だった。当然、頭がおかしくなったのかと考えるよね、でも、ま、それでもイイかって、ボクは思った」

キミのココロについてボクが知っている二、三の事柄』から引用。以下おなじ

「ボクは、見るもの聞くもの触るもの、つまり五感だね、これらをキミが感じると同時にリアルタイムに感知することができる。しかも距離はほぼ無制限、障害物による受信困難は今まで感じたことはない。

ある意味、二十四時間、四六時中、ボクはキミの思考をトレースすることができるし、喜怒哀楽などの感情もフォローできる。おまけに過去の記憶なども読めるのだけど……」

イケメンは、カーストの視覚や思考をすべて覗き見ることができる異能を獲得します。

ただし。このホットラインは一方通行です。
カースト側が、イケメンの意識を受信することはできません。ゆえに、カーストは一方的に胸中を覗かれる。つまり、イケメンに対してウソをつくことができない。

とはいうものの、ホットラインは万能ではありません。

「要するにね、キミが意識したことしか、ボクには分からないってことだよ。キミという身体をフィルターとして世界を捉えている。

キミによって、ある意味では歪められた事物のみ、ボクは感じることができるってこと」

これはまるで、ミステリー小説と読者の関係をほのめかしているように読み取れます。

つまり、ミステリではおなじみのアレを利用したトリックやギミックが登場しますよ━━という親切な作者からのヒントです。

嘘をつけない友達


「自分で思っている程、平凡でも退屈でもないんだよ。絵の件に関してもだけど、キミは自らを過小評価するきらいがある。

クラスメイトに対する鋭い観察眼や、今のキミの態度にすら、ボクはかなり感心しているんだ」

卑屈なカーストに向けた、イケメンのセリフです。ホットラインを通して様々な情報を得るうちに、イケメンはカーストに対して興味を抱きはじめます。非凡であることを見抜くのです。

ところで。イケメンの父親は、現役の国会議員です。しかしながら、名士の家柄にありがちな酷薄な家庭環境で育ちました。跡継ぎ問題に巻き込まれて、命を狙われることすらあったのです。

だから、イケメンは誰も信用していない。家族も、友人も、校内の取り巻きにすら心を許すことはありません。

そんな倦んだ日常のなかに滑りこんできた非日常。唯一、心を許せる相手。ホットラインの恩恵によって『嘘をつけない友達』を手に入れたのです。

信頼できる相手━━カーストと仲良くしていきたいと思っているイケメンの取り計らいによって。いままでシカトされていたはずのカーストは、クラスメイトたちと会話したりイベントに出掛けたりするようになります。

カーストは、それを余計なおせっかいだと感じつつも。ひそかに良いなと思っていた女子と話したり思い出をつくることができたので悪い気はしませんでした。

ここまでが全体の50%。
突然……カーストは、殺人事件の第一発見者になります。


被害者は、クラスメイトの女子生徒。第一発見者である己に向けられた疑惑を晴らすために。持ち前の洞察力と論理的思考を駆使して、スクールカースト探偵の推理がはじまります。

新本格ミステリの醍醐味


序盤や中盤において登場したクラスメイトたちの仕草、セリフ、そして『ホットライン』のギミックさえも。
女子高生の無残な死体の発見を皮切りに━━ありがちなスクールカースト小説を装っていた序盤や中盤の擬装がジワジワとはがされていきます。

スクールカーストと超常的なギミックをあわせのんだ世界観は、太田克史氏がファウスト時代に提唱していた『新伝綺』や『新青春エンタ』を継承しているようにも感じました。

著者はメフィスト賞投稿の常連


本書『キミコロ』は、講談社メフィスト賞へ投稿するために執筆した作品だったそうです。(400字詰め原稿用紙に換算して、およそ500枚)

応募歴は長く、メフィスト誌上座談会において何度も上段掲載されたことがあるようです。実力派。担当編集者がついた時期もあったらしく、電話やメールなどでやりとりをおこなった経験の持ち主でもあります。(以下のリンクを参照)

小説の進行状況04:18
メフィスト 2009 Vol.3
メフィスト 2012 VOL.3


遅れてきた新青春エンタ


本書『キミコロ』は、新本格ミステリの醍醐味を味わえるとともに━━卑屈になりすぎたり日々を鬱々とした気分で過ごしている少年少女読者にとっても示唆に富む内容です。まさに、新青春エンタ! 幻のファウスト賞候補作と呼んでもいいかも。(勝手に)

スクールカーストと非日常をあわせて扱っている点において『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』に通ずるものがあります。新進気鋭である『ゴースト~』の著者に比べても遜色ない才能の持ち主だと思うのですが、いかがでしょうか。
多少アラが目立つ部分もありますが、いつか世に認められる日がくることを見越して、強引にプッシュしておきます。

最後に、ちょっとしたゴシップネタを。
この著者は、41歳の新人漫画家として話題になった『るなツー』先生の夫です。(本書の最終ページにサラッと書いてあったので驚きました)

女子のてにをは(1) (ビッグコミックス)女子のてにをは(1) (ビッグコミックス) [Kindle版]
るなツー (著)
出版: 小学館 (2014/4/7)


「人生、どうなるか分からない」 出発点はお絵かき掲示板 41歳で単行本デビューした主婦「るなツー」さん (1/4) - ITmedia ニュース

るなツーの夫こと藤崎ほつまさんについては、上記インタビューでもチラリと話題にあがっています。
著者ブログによれば、次回作の表紙をるなツー先生が手がけるようです。(出典リンク

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「新青春エンタ」度
★★★★★(5)
「メフィスト賞」度
★★★★☆(4)
「将来性」
★★★★★(5)
「総合」
★★★★★(5)


著者について


藤崎ほつまさん(@Hozma_Fujisaki)。『ふじさき・ほつま』と読みます。1972年生まれ、近畿大学大学院日本文学専攻修了。妻はマンガ家のるなツー。

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