こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・正統派&本格SFまんが
・そんな軌道エレベーターで大丈夫か?
・宇宙ドキュメンタリー監督・涼子さんシリーズ第1弾

ツォルコフスキー・ハイウェイツォルコフスキー・ハイウェイ [Kindle版]
八木ナガハル (著)
出版: 八木ナガハル; 1版 (2011/10/25)

螺旋状の軌道エレベーター、「ツォルコフスキー・ハイウェイ」それは、自動車に乗ったまま大気圏外に出てゆくことを可能とする、巨大な半大気圏外構造物である。

ドキュメンタリー映画作家の鎹涼子は、ハイウエイの開通式に合わせたドキュメンタリーフィルムの制作を依頼される。

だがしかし、ラッシュフィルムをチェックしていた涼子は、開通前の無人のはずのハイウエイに奇怪な人影が写り込んでいるのを発見、それは、ハイウエイ建造にまつわる奇怪な秘密が暴露される前兆であった・・・・・

初出:2011/10/25 コミティア98
表紙奥付を含めて27ページ

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

読み切りSFまんが


本書『ツォルコフスキー・ハイウェイ』は、コミティア発の本格SF漫画であり『ドキュメンタリー映画監督・鎹涼子シリーズ』の第1作目です。
鎹(かすがい)・涼子(りょうこ)と読みます。

映画監督の涼子さんは、撮影のために『人類圏』のいろいろな惑星を渡り歩いています。このシリーズは、そのときに見たり聞いたりした不思議な出来事を紹介する短編マンガです。1話完結。

人類圏


じんるいけん━━聞きなれない言葉です。

学術の世界には『生物圏(せいぶつけん)』という概念があります。いきものが生きている場所━━食物連鎖や水や光合成や大気などによって成立している空間を指します。たとえば地球です。

いっぽうの『人類圏』といえば……じつは、本編中には解説がありません。読み取れ、ということでしょう。

もしかすると過去のSF作品からの引用なのかもしれませんが━━試みにググってみたところ、惑星学者・松井孝典さんが『人間圏』という概念を提唱しているそうです。

『人間圏』とは、産業革命以降に駆動力(蒸気・石油・ガス・原子力)を得た人間たちが造りあげた、従来の『生物圏』を上書きするに至った━━機械と人間による、あらたな生物圏━━のことです。

本書『ツォルコフスキー・ハイウェイ』内における描写を総合して考えるなら━━太陽系第3惑星の人々が、地球外の惑星(複数!)を開拓した未来における、新しい『人間圏』のことを、涼子さんシリーズでは『人類圏』と表現しています。

いいですね。フィクションやSFにおいて、人類が地球外のコロニーや惑星で生活している設定は珍しいものではありません。
しかし、あらためて『人類圏』という言葉で定義しなおすと、新鮮な感じでワクワクします。

『ツォルコフスキー・ハイウェイ』


前置きが長くなりましたが、さっそく本書のレビューにとりかかります。

SF漫画『ツォルコフスキー・ハイウェイ』は、数ある『人類圏』惑星のひとつ━━地球において、300年かけて建造しているという軌道(きどう)エレベーターにまつわる物語です。

軌道エレベーターというのは、地上と宇宙を直接結ぶエレベーター、移動手段のことです。ロケットやシャトルを使わずに、宇宙に行ける夢の技術です。

yagi-highway_01

ツォルコフスキー・ハイウェイ』から引用。以下おなじ

上図が、本書で紹介されている軌道エレベーターです。まさにハイウェイ(高速道路)であり、自動車に乗って、地球上から大気圏外の宇宙港へと直接向かうことができます。

yagi-highway_02

ちなみに。ツォルコフスキーは、ロシア人科学者の名前です。実在の人物で、1895年に軌道エレベーターを提唱しました。(参照リンク

誰も知らない


ツォルコフスキー・ハイウェイは、300年を経て、ようやく完成します。涼子さんは、そのドキュメンタリー撮影にきたわけです。

さっそく現地に向かうと━━あるはずの宇宙港が見当たりません。なんと、ハイウェイの終端は途切れていたのです。

yagi-highway_03

涼子さんが、担当者を問い詰めたところ「なんでこんな工事をしているか知っている者は、誰もいない」という答えが返ってきます。

こんな中途半端なものは撮影できない━━涼子さんが途方に暮れていたとき、ハイウェイ上を行進する奇妙な一群を目撃します。

yagi-highway_04

彼らこそが、ツォルコフスキー・ハイウェイの考案者であり"本来の利用者"なのですが……はたして、その正体とは?

感想


とても本格的なSFであることに驚きました。1タイトルあたり30ページにも満たないのですが、満足感は高いです。読み終えたあと「センス・オブ・ワンダー!」っていう気持ちになりました。

著者の八木ナガハルさんは、涼子さんシリーズの続編をいくつも発行しています。1作目が面白かったので、つぎつぎと購入しました。

2作目の『幸運発生機』は、機械が人間を支配している『人類圏』惑星の話です。
ユニークなのは、『偶然性物理学』によって運用されている幸運発生機のおかげで、最小限の労力で文明や平和が維持されているという設定です。しかし、涼子さんが訪れたときに、それが暴走します。(表紙奥付を含めて27ページ)

3作目の『病院惑星』は、ロボット専門病院━━が登場します。
製造から数百年を経たロボットは、機構や原理が不明確で、部品も残っていないので、修理の困難さが問題になっています。科学の限界とそれを乗り越えるための知恵にまつわる物語です。(表紙奥付を含めて28ページ

このあとも『涼子さんシリーズ』は続きますが、とりあえず3冊を読んでみてください。きっと、八木ナガハル・ワールドを気に入ってもらえると思います。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「本格SF」度
★★★★☆(4)
「センス・オブ・ワンダー」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


八木ナガハルさん(@yagi_nagaharu)。『やぎ・ながはる』と読みます。

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