こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・幼女が、ぼっち高校生にプロポーズ
・カニ! カニ! カニ! 『蟹』が革新した近未来
・涙なしには語れない。リリカルでセンチメンタルなSF小説

バブルピース kindle版バブルピース kindle版 [Kindle版]
井上雑兵 (著), randam_butter (編集), うとまる (イラスト), 深見 真 (序文)

泡のように、やがて夏が終わるまで
少年少女と蟹をめぐる、ひと夏の物語。

井上雑兵初の長編小説。 うとまる様の挿絵付き。
小説家・深見 真様の推薦文も収録。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

ダーリンはデブでぼっちな高校生


本書『バブルピース』は、お便所ごはんが日課のぼっちでおデブな男子高校生が、とつぜん10才くらいの幼女(宇宙人)に求婚されて、期限が来たら母星へ連れ去るぞー、って言われて困ってしまうSFオカルト小説です。

ただし━━『うる星やつら』のような、いつも笑いが絶えない青春学園ラブコメではありません。

不幸な身の上の少年をとりまく……ほんとうに、本当に悲しくて、すこしだけ救いのある物語です。

あらすじ


大好きな父と、大好きな母と、大好きな姉。
家族旅行でテーマパークに向かう途中。交通事故にあって、みんな死んでしまった。

親戚にひきとられた世良夫(せらお)は、地元の高校に入学したものの、生きる目的もなく、いつもひとりで過ごしていた。

世良夫が暮らしている波佐見(はさみ)市は、世界的な蟹(かに)の聖地として有名だった。

 今や蟹は石油や核燃料をしのぐ超高効率のエネルギー源であり、汚れた空気や水を浄化する混合バイオプラントにおける必需品であり、液胞式並列計算機に搭載されるチップの核部品であり、甲羅に浮かぶひび割れから未来を占うための道具であり、平家時代の武士の怨霊がその無念さを示すための依代であり、おだやかな癒しであり、美味な食材である。
 ゴールドラッシュならぬ蟹ラッシュの時代が訪れている。

バブルピース』から引用

あるとき、縁切りのご利益で有名な『波佐見神社』をおとずれた世良夫は、石段から足を踏みはずして転落する。
腕の骨が折れる音を耳にしながら意識を失ったあと、ふたたび目覚めると……痛みはなく、体には傷ひとつ見当たらない。世良夫のそばには、ひとりの幼女が寄りそっていた。

翌日。やはり、ただでは済まなかったのだ。
世良夫の腕は━━カニの鉗脚(はさみ)へと変質しはじめていた。あの幼女のしわざだった。

じつは、神社で出会った幼女は『かに座のベータ星、アルタルフ』からやってきた宇宙人であり、世良夫を蟹夫━━つまり花婿(はなむこ)にむかえるため、母星へ連れ帰りたいという。

出立の期限は、もうすぐやってくる夏祭りの夜。

『蟹の神』を狂信する波佐見神社の巫女(みこ)や、異変を察知したかのように現れた年増のご当地アイドルなど。蟹の聖地である波佐見市に、カニ臭さならぬキナ臭さがただよいはじめる。

思春期を襲ったひどい事故により家族と生きがいを失っていた少年が、地球外生命体に「家族になろう」とせまられる。突拍子もない申し出に戸惑いながらも……はたして、世良夫の選択は?

感想


 藤子不二雄のSF短編的なプロットが、村上春樹の小説と出会ったような物語。
 菅野ひろゆき脚本ゲームのような読後感。

『本書あとがき』より引用

このコメントは、『ちょっとかわいいアイアンメイデン』原作や『PSYCHO-PASS サイコパス』共同脚本で有名な小説家・深見真さんが本書に寄せているコメントです。

『菅野ひろゆき脚本ゲームのような』━━たとえば『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』みたいな読後感、というのは完全に同意です!
すなわち、日常に帰らないことを決意せざるを得ないような過酷な運命線上を歩んできた人物が「空虚な生か? 安息なき死か?」という究極の選択を迫られるストーリー。

かつて『YU-NO』の主人公は、ながい長い旅の果てにたどりついたラストにおいて、みずから望んで安寧な日常との決別を選びました。

本書『バブルピース』の主人公・世良夫の場合は━━。
ある出来事が起きて、いままで無意識に望んでいたことが不可抗力によりかなってしまい、結果的にそれまでの学園生活や人生に別れをつげることになります。
本書の結末は、世良夫にとっての救いであったに違いない━━と、わたしは思います。

絶望の行き止まりで立ちつくしている者にむかって「死ぬのはよくない。もう少し生きてみないか?」と励ますのは、適者生存の勝者たちによるポジショントークにすぎません。
理不尽な挫折やくやしい思いを繰りかえしたのち、ついに悲しみの限界を超えてしまった者には、どんな言葉もなぐさめにはならないのです。

ただ……もしかすると本書のような作品こそが、絶望のふちに立つ人々にわずかでもカタルシスを与えて、心に救いをもたらしてくれるかもしれません。

本書のような━━癒せない心の奥の奥にある傷跡を優しくなでてくれるような作品━━が、1人でも多くの、悩みあるいは絶望をもてあまして暗い地点でうずくまっている青少年のもとへ届くことを願っています。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)

  • バブルピース kindle版
  • 著者:井上雑兵 イラスト:うとまる
  • 価格:204円
  • 読了にかかる時間:約2.5時間(個人差があります)

「リリカル」度
★★★★☆(4)
「クトゥルフ」度
★★★☆☆(3)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


井上雑兵さん(@i_noue)。『いのうえ・ぞうひょう』と読みます。

うとまるさん(@utomaru)。イラストレーター。

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