こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。

ざっくり言うと


・団地小説+『スタンド・バイ・ミー』という新境地
・幼いときに出会った死体が、聖域をあばくカギ
・常識や倫理観をあざ笑う、衝撃の結末

アドラメレクの聖域アドラメレクの聖域 [Kindle版]
優騎洸 (著)
出版: 石窯社; 3版 (2014/6/28)

衝撃の結末に息を飲む本格ミステリー。

タイムカプセルに残された不吉な死のメッセージは、二十年前の事件の予言となっていた。「チームトゥエルブ」は、聖域に潜む闇と向き合うことができるのか?

鮎川哲也賞最終候補作の改稿版。

※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。

記憶という名の聖域


本書『アドラメレクの聖域』は、幼いころに出会った2つの死体にまつわる記憶の解釈をめぐる長編ミステリです。
その結末において、日本人ならば誰もが目にしたことのある『聖域』にまつわる、思いもしなかったような驚きの真相が明らかになります。

映画『スタンド・バイ・ミー』や、アニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』でおなじみのテーマに加えて、某古典ミステリのオマージュや、身ぶるいをさそう読書体験が味わえる一作です。

あらすじ


日本の郊外において城塞都市のごとき威容をほこる集合住宅━━マンモス団地で生まれ育った幼なじみグループの男女たちが、タイムカプセルを発掘するために20年ぶりの再会を果たす。

彼ら━━30歳をむかえつつある元少年少女たちにとって、故郷(ふるさと)である緑町団地は、まさに『聖域』といえる場所だった。しかし、楽しい思い出ばかりではない。

チームトゥエルブのメンバーのひとり━━かつて12号棟の住人であった太一(たいち)は、30歳という若さで末期がんに冒されていた。余命は残りわずか。

体力と精神をすり減らしつづける日々のなかで。太一の幼いころに目の前で起きた転落死と、その2週間後の首吊り自殺━━突如として団地内にあらわれた2つの死体の記憶がよみがえる。

あれは何だったのか。

アドラメレクの聖域』から引用。以下おなじ

おぼえていないだけで━━本当は、自分が殺してしまったのではないか?
当時10歳だった少年が生まれてはじめて死体に直面したわけで、太一にとって小さくない心の傷になっていた。

緑町団地にあつまったチームトゥエルブの面々は、20年ぶりにタイムカプセルの中身と対面する。その中には、見覚えのないメモ用紙が混じっていた。

私は殺されるだろう。事故か自殺に見せかけられて。

君たちが勘違いしないように記しておく。それだけだ。すまなかったね。今まで色々と。いつかのボール、ここに入れておく。

そのメッセージの主は━━10年前に首吊り自殺した人物だった。太一にトラウマをあたえた2つの死体のうちの片方

余命いくばくもない太一にとって、美しくなつかしい思い出が詰まっていたはずの『聖域』━━タイムカプセルは、じつはパンドラの箱であったことを知る。

緑町団地で育った幼なじみの男女たちは……。駆り立てられるようにして、いまや得体の知れないものと化してしまった故郷の知られざる歴史と因縁を調べはじめる。
はたして、彼らが生まれ育った『聖域』のおどろくべき真相とは?

感想



本書『アドラメレクの聖域』の著者ツイート。

あえて申し上げるならば『事件調書の記述のくだり』が、ちょっと苦しいかも。あれが孤島の館ならば、極限状態+警察(鑑識)が来ないという状況で成立するのでしょうけれど、本書におけるあのトリックは都合が良すぎます。

ダメ出しは、ここまで。

本書『アドラメレクの聖域』は、とても挑発的なミステリー小説です。
現代社会における、地域の治安にまつわる行政や警察の対応の遅さへの問題提起をおこなっています。あえて主語を大きくするならば、ストーカー殺人や在日米軍基地周辺の卑劣な性犯罪への有効な対処方法を提示しているといっても良いかもしれません。

この作品は、いわばミステリ消費者に対する踏み絵です。
映画・小説・マンガなど、現代ミステリには残虐な殺人事件を扱ったものが少なくありません。消費者がそれを「楽しむ」ということは━━フィクション上の出来事とはいえ凶悪犯の動機を正当化していることに他ならないわけです。

当ブログで以前レビューしたミステリー小説『白く汚れて冷たく綺麗な』は、名探偵にまつわる過激な問題提起をおこなっていました。
いっぽうの本書『アドラメレクの聖域』は、センセーショナルさを貪欲に求めるあまりにヒトの血の色すら忘れてしまっている現代ミステリ消費者の不感症をあざ笑うかのような、いわばメタミステリであるとも言うことができます。

特筆すべき点は、もうひとつあります。
本編中に登場する『talk』というスマホアプリにまつわる描写です。その名のとおり『LINE』のような機能を有します。
事件の真相をさぐるべく、登場人物たちは手分けをして調査をおこなうのですが━━そのときに『LINE』のようなリアルタイムのグループチャット機能を活用しています。

この『talk』といスマホアプリを登場人物全員に利用させることによって、証言や証拠などをすりあわせるシーンが省略されているのです。
つまり、全員がチャットログを参照していることが前提でストーリーが進むのであり、『LINE』や『Twitter』に慣れ親しんでいるわたしたち読者も当然のようにそれ受け入れてしまう━━という先進的な読書体験を味わえます。刺激的かつ野心的な1冊です。

Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)


「あたらしい団地小説」度
★★★★★(5)
「おどろきの結末」度
★★★★☆(4)
「満足」度
★★★★★(5)
「総合」
★★★★☆(4)


著者について


優騎洸さん(@kou_yuki)。『ゆうき・こう』と読みます。第十八回鮎川哲也賞最終候補、第六回ミステリーズ!新人賞最終候補、光文社「新・本格推理08」に「論理の犠牲者」が掲載。
さいきん商業デビューを果たした『針とら』氏を彷彿とさせる超実力派の書き手です。

あわせて読みたい


今回ご紹介した『アドラメレクの聖域』とおなじテーマを扱っているセルフパブリッシング作品です。

幼き日の靄(もや)がかった記憶をめぐるミステリー小説。
警察━━共同体の治安維持という根源的なテーマにおいて共通点があります。両作者は、おなじ問題意識を共有しているようです。

まちる通りの殺人まちる通りの殺人 [Kindle版]
門屋 亮 (著)

・レビュー有り
『まちる通りの殺人』ワールドカップイヤーを血に染めるミステリー小説 - つんどく速報(電子書籍の感想・レビュー)


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