こんにちは!
つんどく速報ライター☆イマガワです。
・現実生活では、さえない非正規労働者
・しかし、夢のなかでは「帝王」と呼ばれている
・幸せすぎる夢想が、肉体と精神をむしばんでいく
つんどく速報ライター☆イマガワです。
ざっくり言うと
・現実生活では、さえない非正規労働者
・しかし、夢のなかでは「帝王」と呼ばれている
・幸せすぎる夢想が、肉体と精神をむしばんでいく
バタフライダンスにSAYONARA
寺澤 晋吾(著)
『時計じかけのオレンジ』のアレックスさながら<帝王ホリウチ>としてやりたい放題。でも現実では派遣ドライバーの仕事を適当にこなしながら両親と同居する、乳脂肪分3.7の低温殺菌牛乳を好むうだつのあがらない男。
仕事先の嫌なヤツは、より立ち上がったキャラクターとして堀内の夢の世界に登場、<帝王ホリウチ>が惨殺したはずが……。
胡蝶の夢さながら、黒アゲハ蝶があらわれて堀内の夢と現実の世界を行き来して両者の境界の危うさを露呈させる……精彩に富む故に震撼とさせるホラー描写、サイコ・ミステリー的謎解き、脱力ギャグ、切ない恋物語と、バラエティに富んだエンターテイメント性満載。異色のハイブリッド・ノベルの登場です。
※製品版は、タテ書きです。下記プレビューはPC向けです。
夢のなかでは、俺TUEEEE!
本書『バタフライダンスにSAYONARA』は、荘子(荘周)における『胡蝶の夢』をモチーフにして、いわゆる『お前ら』━━自尊心が強いわりには自立心にとぼしくて行動力がなくて人づきあいの苦手な青年の葛藤と犯罪を描いた、サイコミステリー小説です。
あらすじ
「そうですね。現実なんて無くなってしまえばいいと思ってますよ」
『バタフライダンスにSAYONARA』から引用。以下おなじ
堀内貴史(ほりうち・たかし)は、人づきあいの苦手な派遣社員だ。
30歳を目前にひかえて、非正規の職場を転々としており、いまだに将来の先行きが定まらない。実家住まいであり、両親に心配をかけてばかりいる。
貴史は、毎晩おなじ夢をみる。
正確に言えば━━眠りについたあと、いつもおなじ夢のなかで目を覚ます。夢のなかでは、あらゆる状況が、ままならない人生とは正反対だった。
貴史は、夢のなかで帝王ホリウチとして君臨していた。
ホリウチは絶対的な支配者であり、すべての美しい女性たちはホリウチに抱かれることをみずから望んだ。
価値観や倫理観が逆転しているホリウチの世界では、ミルクは極上の麻薬に相当する。民衆には禁じられている『無調整3・7牛乳』を、彼だけが浴びるように飲むことができた。
やりたい放題だった。服を着る必要もなかった。いつも真っ裸ですごしていることから、帝王ホリウチは『マッパ様』と呼ばれ恐れられていた。笑ってはいけない。
故事『胡蝶の夢』がごとく、帝王ホリウチにとって、みじめな堀内貴史の人生などまぼろしにすぎない━━と信じていた。それは、さえない人生をおくる堀内にとっても唯一の救いになっていた。
あるとき、惨殺死体が発見される。
被害者は、貴史が登録している人材派遣会社の営業マン━━速水(はやみ)だった。
営業マンの速水は、貴史のような非正規労働者のことを「虫けら」と呼び、薄給を飲み食いに使うしか能がない「社会の肥料」呼ばわりしたことがあった。その晩、帝王ホリウチによって速水は八つ裂きになった。
しかし、それは「夢の中」の出来事のはず。
いったい誰が、現実の殺人事件を引き起こしたのか?
感想
『胡蝶の夢』は、古代中国の思想家・荘子(荘周)による説話です。
━━チョウになって飛んでいる夢からさめたあと「蝶として生きる夢をみた。はたして、私は本当に人なのだろうか? じつは、わたしは蝶であり、人として生きる夢をみているのではないか?」という問い。
つらい人生から現実逃避するために、本書の主人公は「蝶」であれば良いのにと願い、それが「夢の中」━━帝王ホリウチの世界に反映されます。
本書の構成は、とても単純です。『堀内貴史』の負け犬生活。『帝王ホリウチ』のリア充生活。ふたつが交互に描かれており、すこしずつ夢と現実の境界があいまいになっていきます。
並行する夢(虚構)と現実を描いた文学作品として真っ先に思いつくのは『朝のガスパール』(著・筒井康隆)です。
朝のガスパール
筒井康隆(著)
出版: 新潮社 (2013-07-05)
この小説には世界が5重に存在する。
(1)オンラインゲーム「まぼろしの遊撃隊」内の世界
(2)そのゲームに熱中する主人公達の世界
(3)その主人公たちの物語を書いている小説家の世界
(4)その小説家の新聞連載に影響を与えている投書やBBSの世界
(5)その投書を書いたりBBSに書き込んだりしている読者(現実)の世界
通常ならば互いに交わるはずのない5つの階層に、筒井ならではの文学的実験(メタフィクションの手法)が試みられる。
『朝のガスパール - Wikipedia』から引用
1991年に朝日新聞で連載されていたメタフィクション長編小説です。いまから23年前! Windows95以前! エヴァンゲリオン以前! セーラームーン以前!
本書『バタフライダンスにSAYONARA』の場合は、上記(1)と(2)を並行して描いています。『朝のガスパール』ほど複雑ではありませんが、東洋哲学にもとづくメタフィクションと言えなくもない珍しいコンセプトの小説なのでオススメです。
Kindleストアでサンプルが無料で読めます。お試しください。(スマートフォン、タブレットでもOK)
- バタフライダンスにSAYONARA
- 著者:寺澤 晋吾
- 価格:648円
- 読了にかかる時間:約3時間(個人差があります)
「夢小説」度 ★★★★☆(4) 「サイコミステリ」度 ★★★★☆(4) 「満足」度 ★★★★★(5) 「総合」 ★★★★☆(4)
著者について
寺澤晋吾さん(@5d_fade)。『てらさわ・しんご』と読みます。
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